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新型コロナ感染者を処刑…金正恩式「行動制限」は世界最悪

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は3日、このほど行われた国家非常防疫事業総和会議で「世界的にウイルス伝染病が完全になくなる時まで国家非常防疫システムをそのまま維持し、全社会的、全人民的な行動一致で伝染病防疫活動を強化する」ことが強調されたと伝えた。

新型コロナウイルスの世界的な完全終息まで、強力な防疫措置を続けるということだ。これ自体は当然のことと言えるだろうが、この情報は決して、北朝鮮国民にとってウェルカムなものとは言えない。

北朝鮮は1月、中国・武漢での感染拡大が悪化すると国境を封鎖。国内で風邪の症状を見せた人々を当初は2週間、その後は1カ月もの長期にわたり隔離する強力な措置を取った。問題はその措置が厳しすぎて、むしろウイルスよりも人々を苦しめる結果になっているように見えることだ。

自宅隔離された人々は、1週間に1回、30分に限り、食べ物の調達のため外出することしか許されていない。さらにそれさえも、マスクを着用していなければ許可されない。

隔離状態やマスク着用は保安員らが取り締まっており、違反した場合は体制を危険にさらしたとみなされ、下手をしたら処刑もあり得る。実際に2月には、防疫ルールを破って中国へ行ってきた感染者が銃殺刑になったとされる。

北朝鮮は体制が危機に直面するたび、個人を犠牲にする形で打開策を探ってきた。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

また、隔離下で食べ物や燃料の確保に困難を来した人々が、その苦しさに耐えきれず、自殺したり餓死したりする事件が発生しているとも伝えられる。厳しい行動制限を課すなら、少なくとも食べ物や生活必需品、医療へのアクセスは国家が保証すべきだ。その責任を果たせないなら、それは感染症対策とは言えない。

北朝鮮は現在まで、国内で新型コロナウイルスの感染者は1人も発生していないと主張している。国際社会にこれを信じる向きは少ないが、いずれにしても、感染者がいるかいないかが重要なのではない。

問題は国家が、今回の危機からいかにして国民の生命を守るかだ。体制を守るため、個人の犠牲を防壁にするようなやり方をしていては、感染症に打ち勝ったとは言えない。

同通信はまた、同会議では「模範的な事実資料が通報、評価され、防疫活動に慢性的に対する一部の否定的な傾向が強く総括された」と伝えた。防疫ルール違反を、いっそう強く取り締まるということだ。このメッセージは感染拡大と同じくらい、北朝鮮国民の恐怖を呼び起こしているかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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