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外出禁止に違反したら死刑…金正恩「コロナ封鎖」の問答無用

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

東京都の小池百合子知事は25日夜の会見で、「感染爆発(オーバーシュート)の重大局面」にあるとして、週末の不要不急の外出自粛を要請した。小池知事は同じ会見で、場合によっては「首都封鎖(ロックダウン)」を行う可能性を否定しなかった。

ロックダウンが現実のものとなった場合、警察などによる取り締まりはどのくらい厳しいものになるのか。東京都民のほとんどは、仮にロックダウンが行われるにせよ、中国の武漢ほど厳しいものになるとは予想していないだろう。

芸能人も処刑

しかし世界には、新型コロナウイルスの感染を遮断するため、中国よりも厳しい防疫ルールを敷いている国がある。北朝鮮からはこれまでに、防疫ルールに違反した人が処刑されたとの情報が複数寄せられている。

韓国紙・東亜日報の記者で、脱北者でもあるチュ・ソンハ氏が自身のブログで伝えたところによると、新義州(シニジュ)にある平安北道(ピョンアンブクト)の道保安局の幹部が、隔離された友人に会いに行き、制止しようとした警備担当者とトラブルになり、規則違反で2月16日に処刑されたという。またこれと同じ日、新型コロナウイルスに感染していたと見られる保衛指導員も銃殺された。国境封鎖後に密かに中国へ行っていたことが咎められたのだ。

そしてチュ氏によれば、防疫ルール違反で処刑された最初の例は、北東部の自由貿易都市・羅先(ラソン)の貿易関係者だ。中国へ行ってきたために隔離されていたのだが、2月初め、勝手に大衆浴場(銭湯)に行ってきたことがバレて処刑された。

彼らは新型コロナウイルスに感染したり、感染が疑われたりしたからではなく、金正恩氏の指示を軽く見たことで身を滅ぼしたのだ。金正恩氏の権威に挑戦することも、この国では死に値する罪とみなされる。過去には、金正恩氏の美貌の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏の異性関係を知った女性芸能人らが処刑された事件もあった。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

こうして見ると、北朝鮮の防疫措置は、国民の生命を守ることよりも、体制を守ることを優先していることがわかる。

これは非常に重要なポイントだ。北朝鮮ほど極端かつ露骨に、国民の生命より体制を優先する国はそうそうあるまい。しかし中国も、体制を優先すればこそ、新型コロナウイルス拡散の初期情報を隠ぺいした。

日本においても、当局が行動規制の厳格化に急に舵を切り出したことに対し、なぜ今になって、との疑問の声が聞こえる。日本が中国や北朝鮮と同じとは思わないが、国民の監視がなければ、果たして何が優先されるかわからない要素は確実に存在する。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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