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衰弱・文在寅政権に金正恩氏が見舞う「トドメ」の一撃

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏と文在寅氏(平壌写真共同取材団)

北朝鮮・平壌の金日成競技場で15日午後5時半から、2022年サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会アジア2次予選の北朝鮮―韓国戦が行われる。韓国のサッカー男子代表の平壌遠征は1990年の親善試合以来、29年ぶりとなる。

しかし、サッカー韓国代表戦の名物とも言える熱狂的な応援団「レッド・デビル」の北朝鮮訪問は認められず、韓国へのテレビ中継も行われない。

大韓サッカー協会はアジアサッカー連盟(AFC)を通じて、記者団と応援団の派遣、テレビ中継を認めるよう要請した。しかし、北朝鮮側からの回答は、選手団を除く人員の入国許可はサッカー協会が決められないとのものだった。韓国政府も北朝鮮側に応援団やテレビ中継などを打診したが、北朝鮮は最後までこれを「黙殺」したもようだ。

2月下旬のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談が決裂して以降、北朝鮮は韓国の文在寅政権を突き放しており、W杯予選までもがそのあおりを食った形だ。民間交流案件までがこのように扱われるのだから、北朝鮮の「韓国はずし」は実に徹底している。

側近であるチョ・グク法相の辞任で窮地に追いやられた文在寅政権は、看板政策である南北対話がこの有様であることに、いっそう危機感を深めているはずだ。

先日の米朝実務協議で北朝鮮の非核化に向けた進展があれば、米国の了解の下に北朝鮮がのぞむ南北経済協力に踏み出し、現状を打開したいとの思いが文在寅政権にはあった。それがかなわなかった以上、文在寅政権が能動的に動ける機会はしばらく訪れそうにない。

ただ北朝鮮は、文在寅政権を非難しながらも、その政敵である野党・自由韓国党にも激しい攻撃を浴びせている。北朝鮮としては、保守派の自由韓国党が政権を取るよりも、文在寅氏と与党・共に民主党に政権を維持させておく方が、「やりやすい状況」であるのは間違いない。

それでもなお文在寅政権に対する非難が続くならば、これはもう、金正恩党委員長が何らかの理由から、同政権の終焉を願っているとしか思えない。米国から様々な問題で不興を買っている文在寅氏は、金正恩氏からも個人的に敬遠されている可能性がある。果たして金正恩氏は、文在寅氏に救いの手を差し伸べるのか。あるいはいっそう冷たく突き放すことで、「トドメ」をさそうとするのだろうか。

(参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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