金正恩氏の「風力発電推進」に現場から不満の声
数十年に渡り北朝鮮国民を苦しめ続けている電力難。当局も、電力供給問題を深刻に受け止めている。金正恩党委員長は、毎年発表する新年の辞でエネルギー問題に触れているが、今年の新年の辞では次のように述べている。
「国の電力問題を解決することを全国家的な事業としてとらえ、漁郎川(オランチョン)発電所と端川(タンチョン)発電所をはじめとする水力発電所の建設を推し進め、潮水力と風力、原子力による発電能力を将来を見通して造成し、各道・市・郡では地元の様々なエネルギー資源を効果的に開発、利用しなければなりません」
また、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞はそれに前後して、「最も発電量が多い」「資源が枯渇せず、環境破壊がない、今後の展望が大きい資源」などと持ち上げ、風力発電を含めた自然エネルギー推進を強く押し出すようになった。
しかしその一方、各地の現場からは激しい不満の声が上がっていると、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
平安南道人民委員会(道庁)の中小型発電所運営事業所が、風力エネルギーを使った電力生産の方針を貫徹させるため、現場に非常な圧力をかけているとのことだ。しかし、同時に強調しているのは「自力更生」だ。
当局は「自力更生の精神で交流発電機を改造し、風力発電機を作れ」と注文を付け、銅線などの必要最低限の材料も、それを購入するための予算すら支給しようとしない。予算も技術も何もない状態で、風力発電を進めようにもにっちもさっちもいかない状態だ。
「地域住民のために電気を確保するには、より多くの風力発電機を設置しなければならないが、お金が足りず、発電機を作ることすらできない。材料もなく、技術的にも困難が多く、党の方針を執行するのが難しい」(情報筋)
それなのに当局は「風力発電機1台あたり年間平均3万キロワット時の電力を生産せよ」との課題を下した。小型の発電機でも達成できるものだが、そもそも発電機を作る予算も材料もないのだ。達成不可能なノルマを押し付けられたことに、労働者の間では「いくらなんでもひどすぎる」との不満の声が上がっている。
それ以外にも、問題がある。
「風力で電気を生産するためのコストが、水力や火力より相対的に高い上に、風力で生産した電気を高く売る制度が整っていない」(情報筋)
つまり、予算を投じて風力発電機を製作、設置し発電を行っても、その費用を回収する手立てがない、つまり丸損になるということだ。
元々、北朝鮮の電気料金は非常に安かったのだが、当局は料金現実化の一環として、各家庭に電気メーターを押し売りし、使った分だけ料金を支払わさせるシステムへの移行を進めている。これが完成した地域でも、その料金が風力発電機を作ったところに還元される仕組みはないということだ。
当局は、風力発電以外でも、太陽光発電を強力に推し進め、ソーラーパネルの国産化にも取り組んでいる。多くの家庭では、国から供給されるはずの電力を当てにせず、ソーラーパネルを設置し、照明やテレビに使う程度の電力を賄っている。
今までは巨大な水力発電所を作り続けてきたが、国際社会の制裁の影響で資材の確保が難しく、手抜き工事で使い物にならないことも多い上に、工事中の事故で多くの人命が失われるなどデメリットが大きい。