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米国は韓国の思い通りに動かない…日韓対立で米国から警鐘

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
トランプ米大統領と韓国の文在寅大統領(写真:ロイター/アフロ)

ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、韓国で青瓦台の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長、康京和(カン・ギョンファ)外相、鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防省と相次いで会談した。

この前日、烏山米軍基地(京畿道平沢市)に到着後、「インド太平洋の安全保障と繁栄に不可欠な重要な同盟であり、パートナーである(韓国の)指導者たちと生産的な出会いを期待している」とツイートした。到着後さっそく「インド太平洋戦略」を強調したのは、日韓の対立により日米韓3国の協調体制が揺らいではならないとの立場を鮮明にするためだろう。

特に米国は、韓国が日本による輸出規制措置に反発し、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を見直す可能性を示唆したことを強く憂慮しているとされる。ボルトン氏は一連の会談で、GSOMIAを維持するよう釘をさしたと見られる。

韓国政府の戦略はこうした米国の憂慮を逆手に取り、つまりはGSOMIAを「人質」にして、米国に仲裁を押し付けようというものだろうが、果たしてうまく行くのだろうか。

テキサス州にあるアンジェロ州立大学の教授で、米国防情報局出身のブルース・ベクトル氏は米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、たとえGSOMIAを人質にしたとしても、米国が韓国の思惑通りには動かないと指摘している。

ベクトル氏は、「北朝鮮の弾道ミサイルの軌跡が日本の領海や上空を通る以上、3カ国間の情報共有は、北朝鮮の脅威を総合的に評価するために非常に重要だ」と説明。「米国としては、このような情報共有体制の維持のためにも、(日韓の)どちらか一方の側に付くような形での仲裁には動きにくい」と語っている。

実際、報道によれば、ボルトン氏は河野太郎外相と22日に会談した際、対立が深まる日韓関係について、米国として積極的に仲介する意思はないと伝えていたという。ただ、日韓の対立は、すでに安全保障分野にまで及ぶようになって久しく、米国の専門家たちは徐々に懸念の度を強めているようだ。

北朝鮮としても、軍の内部的な混乱が進んでいる今、最低限の国防力を維持するため弾道ミサイル戦力の維持に固執するはずだ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

つまりは当面、米国の安全保障にとって、日米韓の協力は死活的に重要なままだということだ。

一方、岩屋毅防衛相は23日の定例記者会見で、「韓国との軍事情報包括保護協定を破棄する考えはない」発言。「この地域の平和と安定を考えた場合、安全保障面では日米、韓日、日米韓の連携は非常に重要だ。連携すべき課題は韓国ともしっかり連携していきたい」と強調している。

優等生的な立場表明と言えるが、米国が期待しているのはまさにこれだろう。韓国がGSOMIAを揺さぶれば揺さぶるほど、日本の優等生ぶりが際立つ形になってしまうのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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