北朝鮮の環境汚染が深刻「トンチンカンな対策」でより悪化

金正恩氏(朝鮮中央通信)

食の安全に厳しい目を向け始めた中国の消費者の間では一頃、北朝鮮産の食品が人気を集めていた。「新鮮で安い上に安全」というイメージを持たれていたからだが、それは、北朝鮮当局の「公害のない国」という宣伝に加え、「北朝鮮は経済的に遅れていて工業が発達していないから、環境も汚染されていないだろう」という思い込みによるものだったと言えよう。

現実の北朝鮮は、決して環境汚染と無縁ではない。韓国のNGO、環境運動連合は2001年、「北朝鮮の環境汚染の現況」と題したレポートで、政策的に重化学工業が優先されたことにより、工業地帯で大気汚染、環境汚染が深刻である現実を指摘。さらに、それに対応する資本も技術もないことから対策は皆無であると警鐘を鳴らした。

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このレポートから18年、北朝鮮も環境対策に重い腰を上げたようだが、トンチンカンなやり方が汚染を加重させている。

内閣などの総合機関紙である民主朝鮮は2017年7月18日、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)化学繊維工場で、ボイラー技術の改善と共に、浄化場の建設が進められており、完成すれば工場排水による河川の汚染をなくすことができると報じた。

昨年、施設は完成した。しかし現地のデイリーNK内部情報筋によると、施設は汚水の浄化をまともにできない代物だという。汚水は近くを流れる輸城川(スソンチョン)にそのまま流され、「浄化場を作って環境汚染を防止すると言っていたのに、むしろ前より排水が増えた」(情報筋)という有様だ。悪臭の立ち込める川は市民から「トンチョン」(汚物の川)と呼ばれる始末だ。この川の水が注ぐ海域が汚染されていることは言うまでもない。

工場の北側には、北朝鮮有数の卸売市場、水南(スナム)市場がある。情報筋は言及していないが、汚水は市場で売られている食品の安全性にも悪影響を与えかねない。

せっかくの浄化場がなぜまともに機能していないのか。それは北朝鮮版やっつけ仕事の「速度戦」のせいだ。

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1940年に大日本紡績(現ニチボー)清津工場として開設されたこの工場だが、朝鮮が日本の植民地支配から脱した後は清津紡績工場となり、その後、清津化学繊維工場に改称された。施設が老朽化していることは推して知るべしだ。

北朝鮮当局は2017年から、環境対策を兼ねた新しい施設の建設に取り掛かった。

「施設完工までの期間を短くするために無理に工事を進めて、規定を守らなかった。無理やり速度戦を推し進めた結果だ」(情報筋)

当局は、工事を速く進めるように指示したという。しかし、「工期短縮最優先、クオリティは度外視」というのが速度戦の最大の特徴である。お偉方が視察に来る可能性があるため、外見はそれなりの出来栄えだが、中身は全く伴っていない。

北朝鮮はこの「速度戦」という悪弊から中々抜け出せないようで、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は22日、「万里馬速度想像運動の基本要求」という論説記事で、速度戦を煽っている。

「全人民の心の中にわが国、わが制度、わが生活が第一という信念が脈打ち、国中に世代を超えて受け継がれてきた大切な社会主義わが家のこの世にこれ見よがしに立派に作り上げる火のような情熱が満ち溢れるとき、われわれの社会主義強国建設偉業は万里馬速度で疾風のように走り、飛躍の大きな歩みを踏み出すだろう」

一応「すべての事業は大雑把ではなく科学的に予測を持って設計し推進する」と、やっつけ仕事、手抜き工事を戒める一文が含まれてはいるものの、全体的に「万里馬速度で進めろ」という精神論に過ぎないアジテーションだ。

金正恩党委員長も、速度線を戒める発言をしているが、最高指導者ですら暴走し始めた「じゃじゃ馬」の万里馬を止められないのだろうか。

(参考記事:一度に500人犠牲も…殺人的「速度戦」を金正恩氏が止めた理由

韓国交通大学のイ・ホシク教授によると、この工場で生産されている人絹(レーヨン)パルプの原料は木材であるため、製造工程から発生する汚水は、人体に致命的なものではないとしつつも、日常的に飲用すれば健康上の問題が発生すると指摘した。

黄海北道(ファンヘブクト)鉱山周辺の地域は、水道施設が存在せず、住民は汚染された川の水を飲んで皮膚病に苦しめられているという。

また、豊渓里(プンゲリ)にある核実験場周辺では、川の水が放射能汚染されているとの噂が後を絶たず、実際に健康被害を訴えている元住民もいる。これが、「公害のない国」北朝鮮の悲惨な実態だ。