「自由への逃走」に賭けて失敗した北朝鮮高官の悲惨な末路

金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

北朝鮮の首都平壌郊外の教化所(刑務所)で、受刑者の元高官が脱走する事件が発生した。あえなく逮捕されたこの受刑者には、過酷な運命が待ち構えている。

平安南道のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは3月1日のことだ。首都平壌から東に20キロほど離れた江東(カンドン)郡の垈里(テリ)労働者区にある江東4号教化所に収監されていた、平壌市対外経済委員会の元副局長の男性受刑者が脱走を図った。彼は、国家財産の横領罪で労働教化刑(懲役刑)15年を宣告され受刑していた。

情報筋は脱走の方法、動機などについては明らかにしていないが、北朝鮮の教化所で15年の刑期を満了し、五体満足で出て来られる可能性は決して高くない。受刑者はいちかばちかの賭けに出たのだろうが、逃げ出してわずか2日後に逮捕されてしまった。後述するように、当局は「見せしめ」として即刻、死刑を執行したもようだ。

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この教化所には1000人から4000人が収監されており、内部では他の教化所と同様に人権侵害が横行している。韓国の北韓人権情報センター(NKDB)に寄せられた証言によると、施設内ではペラグラ、肺炎、結核が流行しており、炭鉱での重労働を強いられるにもかかわらず、極めて貧弱な食事しか与えられていない。

そんな教化所からの脱走はしばしば起きているが、その末路は常に悲惨なものだ。

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脱走事件は異例の速さで処理された。

受刑者の逮捕直後、人民保安省(警察庁)教化局長は緊急逮捕に関する対策執行に関する提議書を上級機関に提出し、同省予審局は翌日、教化局に緊急指示文を下した。つまり、事後処理で事を済ませようとしたということだ。

教化局は、教化所を管理する部署で、受刑者の収容、管理、北朝鮮全土の教化所の業務指導、統制、監督、赦免、減刑などを司っている。予審局は、捜査終了後起訴までの段階にあたる予審に関する指導、監督や、強姦、殺人などの重犯罪者の尋問、検察の捜査で逮捕された容疑者の追加捜査、拘留場の設置、運営、監督などを扱う部署だ。

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本来、予審局は、業務や組織の構造からして、教化局に指示を下せないことになっているため、指示は予審局の上級部署から下されたものを単純に伝達しただけか、同時に両部署に伝達されたものと思われる。

逮捕後わずか2日で指示が下されたのは、当局が今回の事件を非常に重く見ていたことを示す。折しも光明星節(金正日総書記の生誕記念日)と最高人民会議の代議員選挙(3月10日)を控え、特別警戒態勢が敷かれていた。こうした期間中の不良行為は最高指導者の権威に対する挑戦とみなされ、政治的な事件とみなされる。

今回のケースも、事が大きくなれば教化所責任者のクビが飛ぶことになるためだろう。

指示の内容は、教化所に対する監査を行い、監視体制に問題がなかったかを確認すると同時に、「(ほかの)受刑者に試験的に脱走者の末路を見せつける対策を作成、報告し、党の批准を経て、直ちに執行すること」というものだ。

つまり、他の受刑者の恐怖を煽るために、教化所内で残忍な方法で公開処刑を行うというものだ。

受刑者は拘束後、人民保安省教化局第4教化所本所予審科の独房に監禁されたが、処刑は免れないものと思われる。それも人間を文字通り「ミンチ」にしてしまう、大口径の高射銃を使った残忍な方法でだ。

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