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中国、対北朝鮮密輸の取り締まりを強化「5G」も利用

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士たち(デイリーNK)

国産品の生産奨励、愛用キャンペーンが行われている北朝鮮だが、依然として経済の対中依存度は高い。市場で売られている工業製品の9割が中国製という情報もある。

中朝間では公式の貿易以外にも密輸が広範囲に行われてきた。密輸と言うと、覚せい剤や核兵器に使う部品を想像するかもしれない。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

たしかにそういったモノもやり取りされているが、より多いのは生活必需品や食料品であるのが実際のところだ。

中国はそのライフラインの手綱を締めたり緩めたりすることで、北朝鮮への圧力として使っている。北朝鮮の4回目(2016年1月)と5回目(同年9月)の核実験に合わせて、密輸の取り締まりが強化されている。つまり、中国は密輸が北朝鮮のライフラインを支えていることを知り、締め付けにかかるために取り締まりを行っているということだ。

米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の中国・丹東の密輸関連の情報筋によると、中国の税関当局は最近まで黙認してきた密輸に対する取り締まりを強化している。

税関当局は、密輸現場を確保し、現行犯で逮捕する。現行犯でなければ起訴されても裁判で証拠不十分で無罪になることが多いためだ。

4月末から今月初めにかけては、丹東市郊外の国境警備隊の幹部が、複数の密輸業者からワイロを受け取り、密輸を黙認した容疑で大連税関警察に逮捕された。中国政府は、現場の幹部がワイロを受け取り密輸を黙認していることを知りながら放置してきたが、態度を一変させた。

(参考記事:北朝鮮の国境警備兵が赤裸々に告発「犯罪天国」の実態

丹東市郊外の東港の情報筋は、3月末から4月初旬にかけて起きた密輸船転覆事故で乗組員6人が行方不明になったことをきっかけに、取り締まりに乗り出したが、業者は船を漁船と偽って密輸を続けていると伝えている。そのあおりで、東港を出港する漁船は内部の検査を受けなければ出港できなくなっている。

「中国当局の密輸取り締まりは繰り返される恒例行事だが、今回のように組織的に厳しく取り締まるのは初めて見た。中朝の友好関係に何らかの異常が生じたのかもしれない」 (中朝貿易に従事する中国業者)

丹東では5G技術を利用した取り締まりが行われているとデイリーNKの情報筋が伝えている。丹東市郊外の虎山長城、東港では先月中旬、5Gネットワークを使った取り締まりで業者が逮捕されている。

「以前の4Gによる交信では顔写真を認識、分析するのに時間がかかり、軍が密輸の現場に到着するころには業者に逃げられていた。しかし、5Gを使えばすぐに出動でき、業者は逃げる隙もない」(情報筋)

北朝鮮に対する制裁圧力は、確実に強まっている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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