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ねらわれた9歳女児…金正恩「拷問部隊」の非道な手口

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮と中国当局が最近、脱北者を摘発するためにスパイを活用しているとの情報が出てきた。

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は2日、複数の消息筋の話に基づき、中国国内に潜伏する脱北者と彼らを手引きしたブローカーを探し出すため、協力を強化していると伝えた。それによると、北朝鮮当局の指図を受けた北朝鮮人が、国境を越える人々のグループに浸透して脱北者とブローカーのネットワークを把握し、中国当局が一網打尽にする事例が増えているという。

先月末には9歳の女児を含む7人の脱北者が中国当局に摘発されたとの情報があるが、この人々もまた、こうした方法で摘発されたらしいとのことだ。

(参考記事:9歳女児を待つ残酷な運命…北朝鮮に強制送還の危機

北朝鮮でこうした作戦を担当するのは、国家保衛省である。拷問や公開処刑、政治犯収容所の運営などを担当する、泣く子も黙る秘密警察である。

国家保衛省は近年、中国に潜伏する脱北者を摘発したリ、韓国に逃れた脱北者を強制的に帰国させたりするオペレーションに血道を上げてきた。それはもちろん、金正恩党委員長の命を受けたものである。

(参考記事:美人タレントを「全身ギプス」で固めて連れ去った金正恩氏の目的

金正恩氏は最近、軍内での女性兵士に対する虐待を止めさせるよう指示するなど、一部の面においては人権に配慮しているかのような所も見られる。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

しかし、脱北者に関しては例外とされているもようだ。国家に対する裏切り者と見なされる脱北者は、スパイや反逆者も同然であり、北朝鮮では事実上、反逆者の人権は認められていないも同然だからだ。

VOAによれば、国家保衛省と中国当局は、中国で逮捕した脱北者の一部を北朝鮮に強制送還せずに韓国へ送り込み、情報源として利用しながら脱北支援組織について探っているという。あるいは、一家で脱北した人々のうち1人を人質に取り、他の脱北グループの摘発に協力した場合に解放する方法も用いられているとのことだ。

このような境遇に置かれた脱北者が、国家保衛省の要求を拒絶することはほとんど不可能だ。人質に取られた家族が北朝鮮の収容施設に送られてしまえば、凄惨な虐待が待っていることをよく知っているからだ。

(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

北朝鮮のこのような行いを放置すれば、いずれ本格的な諜報工作員の海外浸透ルートにも化けかねない。脱北者の人権問題は、北東アジアの安全保障に関わる問題だということだ。日米韓など関係各国はこのような認識に立ち、北朝鮮と中国当局の人権侵害を止めさせるべきだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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