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中国が拘束…金正恩氏の「友人」と女学生パーティーの秘密

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

中国外交部は14日、カナダ人で北朝鮮ビジネスに携わっているマイケル・スペーバー氏を国家安全保障を脅かす容疑で拘束したと明らかにした。拘束の現場は、中国と北朝鮮の国境地域である遼寧省丹東市。スペーバー氏は、ただのビジネスマンではない。金正恩党委員長の「マブダチ」とされている人物だ。それだけに拘束の背景が気になる。

女学生がコンパニオンとして

金正恩氏のマブダチとして真っ先に思い浮かぶのが、米プロバスケットボールNBAの元スター選手であるデニス・ロッドマン氏だ。ロッドマン氏は2013年、いきなり訪朝して金正恩氏と面談し世界を驚愕させた。さらに翌2014年にも訪朝し、金正恩氏の誕生日(1月8日)を祝った。

スーパースターに誕生日を祝ってもらった金正恩氏は大はしゃぎだったが、その裏では、ロッドマン一行を接待するパーティーに、名門学院から女学生たちがコンパニオンとして動員された。乱痴気騒ぎに付き合わされた彼女たちは、陰で泣いていたという。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

実は金正恩氏とロッドマン氏の仲を取り持ったのが、スペーバー氏である。スペーバー氏はカナダのアルバータ州カルガリー出身だ。2005年にバンクーバーのNGOから平壌の学校に半年間、英語教師として派遣されたことをきっかけに、北朝鮮と深い関わりを持つようになった。北朝鮮訛りの朝鮮語(韓国語)を操り、現在は中国吉林省朝鮮族自治州の延吉市に在住しながら、北朝鮮のビジネスコンサルタントと文化、教育、スポーツ交流を行う白頭山文化交流社を運営している。

スペーバー氏は2016年に開かれた「白頭山国際フィギュアスケート祝祭」に、世界的なフィギュアスケート選手を招請した。ロッドマン氏をはじめそれなりの人脈と、企画を成立させる能力の持ち主のようだ。一方では、同年3月に開かれた「平壌国際アイスホッケー親善大会」にナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)所属の有名選手が参加すると発表したが、結局、参加したのはアマチュア選手14人だけだったという「大ぼらを吹いた」経歴もある。

それでも、金正恩氏が心を開く数少ない外国人であることは間違いない。金正恩氏自慢の専用機に同乗したり、別荘に招かれたりという情報もある。つまり、ベールに包まれた金正恩氏のプライベートを知る人物でもあるのだ。現地指導の際、一般のトイレを使用できず、専用車のベンツに「代用品」を載せて移動しているといわれている金正恩氏のトップシークレットも知っている可能性がある。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

金正恩氏との特別な関係の見返りか、北朝鮮当局からは外貨稼ぎを依頼されているようだ。しかしここ最近は制裁の影響もあって、思うような結果を出せずに苦戦しているとの話も聞こえてくる。

スペーバー氏が拘束された背景には、中国とカナダの対立があるとされる。今月1日、カナダで中国の通信機器大手「ファーウェイ」副会長の孟晩舟が、米国の要請により逮捕された。対イラン制裁違反の疑いだという。この後、中国で元外交官のマイケル・コブリグ氏と、スペーバー氏が拘束された。19日には3人目が逮捕された。一連の逮捕はファーウェイ副会長拘束への報復という見方が強い。

現時点では、スペーバー氏はとばっちりを受けただけのように見えるが、北朝鮮に対するなんらかの警告の意図がまったくないとも言い切れない。いずれにせよ中国公安はスペーバー氏から、私的パーティーやその他のプライバシーも含め、金正恩氏に関する様々な情報を入手しようとしているかもしれない。だとすると、金正恩氏も心穏やかではないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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