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北朝鮮軍の脱走兵、ロシアから拉致・強制送還か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

滞在中のロシアから韓国に向かおうとしていた脱北者が、北朝鮮に強制送還される事件が起きた。

デイリーNKの対北朝鮮情報筋によると、今月初めにモスクワで韓国行きを待っていた脱北者チュ・ギョンチョルさん(29歳)が忽然と姿を消した。7日にウラジオストクで裁判を受け、その日のうちに北朝鮮に強制送還された。その後の処遇については明らかになっていないが、韓国行きを目指していたため、収容所送りを含めた重罰が予想される。

北朝鮮当局は近年、相当に強引な手段を動員し、脱北者の拉致・強制送還を続けている。

チュさんは昨年、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の下戦士(二等兵)の身分で、労働者としてロシアに派遣された。しかし、辛い労働に耐えかねて韓国行きを決心した。各所の助けを借りて、手続きをほぼ終え、後は韓国行きを待つだけだった。

チュさんが北朝鮮に強制送還されたという衝撃的な話は関係者の間に急速に広がったが、これまでのところ、ロシアメディアはこの件を報じていない。

情報筋は、北朝鮮当局がロシア当局に協力を要請した上で拉致したものと見ている。また、北朝鮮で高官を務めた脱北者も、チュさんが収容所に送られるものと見ている。

「単純な職場離脱なら、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)で済まされることもあるだろうが、脱北(して韓国行き)を試みたことがバレれば、そうはいかないだろう。兵士の身分であることに加え、韓国行きを試みたことはすでにバレている可能性が高く、収容所送りになるだろう」

ロシアで働く北朝鮮人労働者は、他の国と比べて比較的ゆるい監視のもとに置かれていると言われている。それが、脱北者を多く生み出す一因となっている。2016年8月末には、労働者10人が駐サンクトペテルブルグ韓国領事館に亡命を申請している。

昨年2月には、欧州人権裁判所(ECHR)が、ロシア政府に対して脱北者チェ・ミョンボクさんの強制送還を、審理が終わるまで禁止する決定を下している。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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