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金正恩氏の「ボディーガード部隊」で致命的なミス

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏を守る護衛司令部の屈強な要員たち(板門店写真共同取材団)

ラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、北朝鮮で先月中旬、軍の将校1人が摘発された。それが金正恩党委員長の身辺警護を担当する護衛司令部の所属だったとあって、上を下への大騒ぎとなっているという。

(参考記事:【写真】「凄腕デカ」から「美少女戦士」まで…金正恩氏ボディーガードの多才な顔ぶれ

RFAの平壌の情報筋によると、摘発されたのは護衛司令部第1局所属の20代の将校だ。長年、護衛司令部内の通信を取り仕切ってきたこの幹部は、夜中に坑道通信勤務場の状況を点検していた。2号室に置かれていた受信機の状況を点検する過程で、周波数を合わせてRFAを聞いていたところを直日官(勤務の総括責任者の将校)に見られてしまったという。

北朝鮮では、当局が禁じる海外情報に触れることは重罪に当たる。過去には、韓流ドラマを見ただけの女子大生が凄惨な拷問を受けた例もあった。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

粛清の嵐

しかも、RFAの放送を聞いているところを見つかってしまうとは、文字通り致命的なミスと言える。

RFAは、1950年代に米国政府の反共産主義情報作戦の一環として設立され、米国政府の予算で運営されている。現在は9カ国語で放送を行っているが、1997年に始まった北朝鮮向けの朝鮮語放送は1日6時間放送され、中波と短波に加えアプリ、ポッドキャスト、Youtubeでも聞けるようになっている。

北朝鮮の刑法はもちろん、RFAなど米国、韓国などの放送を聞く行為を違法としている。しかし、朝から晩までプロパガンダ一色の北朝鮮国営メディアに飽き飽きした多くの人々がこれらのラジオ放送を密かに聞いているのが実情だ。

将校の行動を目撃した直日官は、即座に上部に報告。その後、この将校は忽然と姿を消してしまった。どのような処罰が下されたのかについて情報筋は触れていない。ちなみに金正恩氏の身辺警護を担当する部署だけあって、成分(身分)も忠誠心も申し分ない人物だったという。

この事件を受けて、護衛司令部は粛清の嵐に襲われた。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件

中央党(朝鮮労働党中央委員会)の組織指導部は、護衛司令部に対する集中的な検閲(監査)を開始した。また先月20日、金正恩氏は組織指導部と護衛司令部の責任イルクンに対して「組織指導部が護衛司令部の検閲を行い、総和(総括)で明らかになった問題に党的、法的な処罰のレベルを上げよ」との特別指示を下した。

その結果、金日成主席と金正日総書記の遺体が葬られた錦繍山(クムスサン)太陽宮殿の警備担当だった複数の幹部が粛清されたと伝えられているが、具体的にどのような人物が、また何人が粛清されたかはまだ確認されていないと情報筋は伝えた。

今回の事件について、平壌の別の情報筋は単純なラジオ聴取の摘発ではなく、別の意図があるかもしれないと見ている。粛清は、権力闘争の一部として行われたのではないかというのだ。

「金正恩氏の身辺警護と体制の護持の責任を担い、莫大な権力を誇る護衛司令部が、急に組織指導部の検閲を受けたことは、単に一将校が米国の放送を聞いたことが主な理由ではなく、何か隠された意図があるのではないか。金正恩氏が政権に就いて以降、誰もかなわない絶大な権力を手にした組織指導部が、同じように絶大な権力を持っていた軍の総政治局に対して検閲を行い、完全にひっくり返した」

つまり、軍総政治局を血祭りにあげた組織指導部が、次の「獲物」である護衛司令部に襲い掛かったのではないかというのが、この情報筋の見方だ。

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デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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