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金正恩氏が指導する「7000人死亡リゾート」の過酷な毎日

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

金正恩党委員長が旗振り役となり進められている北朝鮮随一の高級リゾート「元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区」。東海岸の港町、元山の郊外にある葛麻半島にホテル、ビーチ、空港などが一体化したワンストップリゾートを作るというメガプロジェクトだ。

金正恩氏は何度も現地指導を行うなど、並々ならぬ関心を見せている。

その一環として、元山の中心市街地と空港と結ぶ道路の周辺にある古い民家を取り壊して、マンションを建設する工事が進められている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、今年の初めから元山市内の工場、企業所に勤める人々のほとんどが、リゾートとマンション建設現場に動員され、現場で寝泊まりしながら工事に従事させられている。「速度戦」で進められているため、マンションの骨組みは今年中に完成予定だとのことだ。

「速度戦」とは、諸条件を無視してともかく速く作業を進めることを意味し、その副作用として無理な工期のごり押しによる手抜き工事が横行。また安全対策も後回しにされるため、死亡事故が頻発している。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

一方、市内の人民班(町内会)は、毎月20万北朝鮮ウォン(約2600円)相当の慰問品を現場に届けることを強いられている。1世帯あたり1ヶ月に1万北朝鮮ウォン(約130円)ほどの負担となる。女盟(朝鮮社会主義女性同盟)も、現場での炊き出しを行うための人員を動員している。

「当局は毎日のように速度戦を強調し、住民にとてつもない苦労を強いている」(情報筋)

勤労動員や供出に応じても、金銭的見返りがあるわけではない。生きていくためには市場で商って現金収入を得なければならないのに、そのための貴重な時間も奪われている。全市民が、朝早くから夜遅くまで休みなくタダ働きすることを余儀なくされる状態となっているのだ。まさに、「ブラック企業」ならぬ「ブラック都市」だ。

現場には地元住民のみならず、教化所(刑務所)の受刑者が動員されているが、作業中に負傷した受刑者はどこかに連れ去られ戻ってこないとの情報がある。

(参考記事:北朝鮮「倒れた作業員は連れ去られ、戻ってこれない」魔の工事現場

韓国のニュースサイト、リバティ・コリア・ポスト(LKP)によれば、同地区ではすでに7000人もの犠牲者が出ているという。ちょっと目を疑う数字だが、上述のような情報を踏まえてみれば、相当な犠牲が出ていてもおかしくはない。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

ちなみに建設されているマンションの居住権は、取り壊された民家に住んでいた住民に与えられるとのことだが、余剰分は販売され、特権層の私腹を肥やすのだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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