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北朝鮮「倒れた作業員は連れ去られ、戻ってこれない」魔の工事現場

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

北朝鮮の金正恩党委員長の旗振りで始まった高級リゾート「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の建設事業。外国人観光客を多数誘致し、外貨を確保するのが目的と見られる。

ところが、その工事現場では様々な人権侵害、大事故が多発しており、このままでは「いわくつきリゾート」「事故物件」になりかねない様相を呈している。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

死体は廃棄物扱い

韓国のリバティ・コリア・ポストの現地情報筋によると、この工事は、今年1月10日に始まった。当局は、人民保安省(警察庁)管轄の9ヶ所の教化所(刑務所)、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)保衛部(秘密警察)の教化所の収監者の中から、健康状態が良好な30代以下の25万人の人員を選抜し、現場に投入した。

金正恩氏は今年5月25日、工事現場の現地指導を行ったと北朝鮮の国営メディアは報じている。

情報筋によると、その場で金正恩氏は、本来70回目の国慶節(建国記念日)を迎える今年9月9日までに完成させる計画だったものを、来年4月に遅らせるよう指示を下した。その理由について情報筋は、必要な資材が到着していなかったからと説明した。

しかし実際には、9月9日までの完成などそもそも無理だったのではないだろうか。

江原道(カンウォンド)にある教化所の幹部は「1月から今まで、葛麻地区の工事現場では7000人、月単位では1000人が死んでいる」と証言した。「今のように無理に工事を進めれば、動員された収監者の半分も生き残れないだろう」と述べた。

安全設備もない状態で1日14時間の奴隷労働を強いられ、倒れたり怪我をしたりした人は、「現場処理班」の保安員(警察官)によってどこかに連れ去られ、二度と現場に戻ってこないという。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

金正恩氏が訪れた別の建設現場の写真を見ると、背景に写っている建設中の建物に、転落事故を防止するためのフェンスらしきものは見当たらない。また、足場もまるで鳥の巣のように乱雑に組まれている。これでは事故が起こらない方が不思議だ。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の豊渓里(プンゲリ)にあった核実験場の建設には、近隣の管理所(政治犯収容所)の政治犯が多数動員されたが、被ばくで死亡した人は放射性廃棄物扱いされ完全統制区域に埋められ、隠蔽されたという。葛麻地区でも同様の奴隷労働が行われているということだ。

そもそも政治犯ではなくとも、兵役中に栄養失調や事故で死亡した兵士や、教化所に収監され死亡した人の遺体が家族のもとに返されることはないという。

(参考記事:北朝鮮、核実験施設で「政治犯」を強制労働に動員か

にわかに信じがたい話だが、北朝鮮では安全を軽視したことによる労災死亡事故が多発していることを考えると、多数の死者が出ていることには違いないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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