「非核化されては困る」…北朝鮮「抵抗勢力」の本当の心配ごと

金正恩氏(朝鮮中央通信)

史上初の米朝首脳会談が実現したことを受け、北朝鮮国内では金正恩党委員長に対する評価が高まっていると伝えられる。だが、それは庶民の間でのことであって、朝鮮労働党などの幹部や、商売で財をなした富裕層は違う意見を持っているようだ。

売春に走る

中国に派遣された北朝鮮の幹部によれば、中央の高官、外貨稼ぎ機関の関係者、トンジュ(金主、新興富裕層)の間からは「現状を維持し国際社会から原油支援さえ引き出せばいい」という声がよく聞かれるという。

「朝鮮労働党本部庁舎の幹部たちは一様に、非核化に大きく反発している。しかしそれは表向きのものだ。本音では、非核化に合意して国際社会がすぐに経済制裁を解くことに不安を抱いているのだ」(前出の幹部)

北朝鮮にとって、経済制裁の解除は望ましいことと思われるが、果たしてどういうことか。それを理解するには、北朝鮮経済の現代史を知る必要がある。

北朝鮮の経済はかつて、社会主義的な「計画経済」一辺倒だった。国民の生活に必要なモノの種類と量を国家が決定し、工場や農場に生産を指示。出来上がったモノを国民に配給するというものだ。ところが、このシステムは1990年代に崩壊してしまう。北朝鮮を経済的に支えていた旧ソ連・東欧の社会主義圏が消滅し、さらには数十万単位の人が餓死したと言われ大飢饉「苦難の行軍」に襲われたのだ。

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これにより、国民を養えなくなった国家は、人々がそれまで禁じられていた「商売」に乗り出すのを黙認する。北朝鮮の人々の生存本能は、金儲けの楽しさを知るのとともに「商魂」へと変じ、国の経済をなし崩し的に資本主義化させてしまったのだ。

「苦難の行軍」が発生した当初、人々が売ったのは衣類や家財道具などのなけなしの財産だった。それを売り払ってからは、やむなく売春に走る女性たちもいた。

(参考記事:【動画:単独入手】 北朝鮮で「生計型売春」が増加

しかし今では、資本家と呼べる人々まで登場している。たとえば、中国との小規模な密輸で原資を蓄え、そのカネをエネルギー不足で開店休業状態の国営工場に投資。海外から燃料と発電機、原材料を輸入し、中国企業からの委託生産で大規模な輸出を行う――といったパターンだ。

しかしこれも、国家の力が弱まったからこそ可能になったことだ。非核化によって経済制裁が解除され、韓国や中国から大規模な経済支援が行われたら金正恩体制がパワーを取り戻し、強力な中央集権に回帰してしまうのではないか……。

これが、現在の北朝鮮経済で既得権を握る高官や富裕層の心配事なのだ。

なるほど、そういう可能性もゼロではないだろう。だが、北朝鮮の経済がいくら資本主義化したといっても、その範囲はまだまだ限定的だ。韓国経済や中国経済、そしていずれ日本経済とのアクセスが広がれば、今はまだ一部の特権階級の贅沢でしかない「消費ライフ」を、より多くの北朝鮮国民が知ることになる。

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そうなれば、金正恩氏がいくら強力な独裁者であっても、過去への回帰は難しいのではないか。言い方を変えるなら、より多くの北朝鮮国民に「自由な商売」のやりがいを教えることこそが、北朝鮮社会の本物の変化につながるということだ。