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アダルトビデオも拡散…金正恩氏も手を焼く北朝鮮国民「心の抵抗」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

朝日新聞(電子版)は9日、北朝鮮関係筋の情報として、同国北部の両江道三水郡(リャンガンドサムスグン)で先月、韓国の歌謡曲を聴いて踊った未成年者6人に対する公開裁判があったと伝えた。6人はいずれも16~17歳で、うち4人には反国家陰謀罪で労働鍛錬刑1年が宣告され、残る2人も教化所(刑務所)に送られたという。

北朝鮮では、このような出来事が継続的に起きている。

同じ両江道在住のデイリーNK内部情報筋によれば、2016年1月16日にも、恵山(ヘサン)市内の映画館前で多くの人が見守るなか、16歳と17歳の少年・少女15人が公開裁判にかけられた。「米国映画を見た」との罪状によるものだ。

2年の月日をはさんでほとんど同じようなことが起きているわけだが、これは北朝鮮がいかに国民の自由を侵害しているかを物語ると同時に、どんなに力で抑えつけられても、同国の人々の「心の自由」が広がり続けているという時事をも意味する。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

音楽や映画だけではない。韓国のキリスト教団体・カレブ宣教会のキム・ソンウン牧師は今年1月までに、北朝鮮国内でアダルトビデオを制作・販売した容疑で逮捕された人々が公開裁判にかけられた様子を収めた動画を入手。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)で一部を公開した。それによると、北朝鮮の司法関係者と思しき人物が、広場に集まった子どもを含む数十人の市民に向かって「性関係を持った後、数回に渡り撮影を行いました」などと被告の罪状を説明している。

ここでは、アダルトビデオそのものに対する評価は脇に置くことにする。強調したいのは、こうした「心の自由」、あるいは「欲望」の発露において、北朝鮮の人々が権力に対する最も強い抵抗を示しているということだ。

しかも、それは金正恩党委員長にごく近いところでも起きている。

(参考記事:「芸術団虐殺事件」に隠された金正恩夫人の男性スキャンダル

もちろん、日本やその他の国ほどではないにせよ、北朝鮮においても、アダルトビデオの類はかなり前から広く出回っている。

もちろん、そのような傾向が度を越せば、覚せい剤の蔓延のような社会の退廃につながってしまう危険性もある。実際、北朝鮮社会の薬物汚染は、金正恩氏の恐怖政治をもってしても手に負えないところまできてしまった観がある。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

しかしそうではあっても、筆者は、北朝鮮国内のこうした動向を軽視すべきではないと考える。北朝鮮の非核化は、究極的には、同国の民主化なくしてはあり得ない。そこに向かう推進力として、北朝鮮国民の「心の自由」に勝るものはないと思うからだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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