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「殴られ、妊娠中絶を強制された」なお続く北朝鮮の国民虐待

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の金正恩党委員長が訪朝した韓国のK-POPアイドルを歓待し、朝鮮半島の平和ムードがいっそう高まる一方で、北朝鮮国民は依然として人権蹂躙の危機の中にある。

中国で中朝首脳会談の直前に脱北者7人が公安当局に逮捕された件は、デイリーNKジャパンでも既報の通りだが、逮捕者数がさらに増えて30人を超えたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

RFAは、北朝鮮の人権問題に取り組む団体「チンゴムダリ」(架け橋)のパク・チヒョン代表の話として、先月29日午後9時ごろに脱北者16人が公安当局に逮捕されたと伝えた。これ以外にも10人が逮捕されたもようで、先週に遼寧省瀋陽と雲南省昆明で逮捕された7人を合わせると、この1週間で逮捕された脱北者は33人に達する。

瀋陽で実の姉と姪が逮捕されたパク・ソヒョン(仮名)さんは、RFAの取材に胸の内を語っている。

「姪がとても苦しい状況に置かれているようです。母親を呼び続けていると…私は全世界を回って(脱北者の)強制送還の実像について語るつもりです。姉を救い出せるのならば。人間扱いされないとんでもない状況です。地球上にあんな国はありません」(パク・ソヒョンさん)

(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

また、瀋陽で姉が逮捕されたパクさん(上記のパク・ソヒョンさんと同一人物かは不明)は、英テレグラフ紙の取材に応じて、姉の救出を訴えた。

咸鏡道(ハムギョンド)出身のパクさんは1999年、飢えから逃れるために脱北したが、中国で何度も人身売買の被害に遭った末に公安局に自首し、強制送還された経験がある。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

「北朝鮮の保安員(警察官)は私の話を全く聞こうともせず、殴り続けた。妊娠6ヶ月だったが『中国人の子どもは許さない』と言われ、妊娠中絶を強いられた」(パクさん)

(参考記事:「恐怖に震える北朝鮮女性が600人以上も…」中国で大規模な人身売買被害

再び脱北し韓国に定住したパクさんは今年1月、姉が中国人男性と結婚し15歳の娘と9歳の息子と4人で暮らしていることをSNSを通じて知った。常に強制送還の危険にさらされており、3年前に逮捕されてしまったが、夫と村人の嘆願が功を奏し釈放された。

しかし、中国当局の取り締まりの強化を受け、姉は中国を発って韓国に向かう決心をした。妹のパクさんは、先に姉を韓国に呼び寄せ、後に夫と子どもたちを呼び寄せる手はずを整えた。ところが、計画の実行段階で姉が逮捕されてしまったのだ。

パクさんは中国、韓国、米国に姉の北朝鮮への強制送還を止めるよう求めている。しかし、韓国国内では脱北者の強制送還を含む人権問題についての関心は低いままだ。

昨年10月、4歳男児を含む脱北者10人が中国当局に逮捕された時には、先に脱北して韓国に暮らしている父親が韓国メディアに出演し、救出を訴えた。しかし、さしたる世論の関心を集められないまま、10人は北朝鮮に強制送還されてしまった。

(関連記事:北朝鮮の4歳男児がこれから経験する「地獄の1丁目」

パクさんの姉は現在、中国の施設に拘禁されており、通常通りならば数週間以内に強制送還される。パクさんは「姉が強制送還されないように祈り続けています。私のようなひどい体験を、姉にはしてもらいたくない」と語っている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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