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北朝鮮は遠からず「核・ミサイル実験の停止」を一方的に宣言する

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は12月29日、2017年の核・ミサイル開発を総括する備忘録を配信。過去1年の間に行った核実験とミサイル発射実験の意義にそれぞれ言及しつつ、「われわれにいかなる変化も望むな。そして強大な朝鮮の実体は永遠に骨抜きにすることも、抹殺することもできない」と宣言した。対話によっても核武装を放棄する考えはないことを鮮明にした形だ。

とは言っても、核実験やミサイル発射実験を永遠に続けるわけではない。技術やデータの蓄積が十分なレベルに達したら、一方的に核・ミサイル実験の停止を宣言するつもりだろう。そこで初めて対話に乗り出し、国際社会に制裁解除を迫るものと思われる。中国やロシアの支援があれば、制裁解除を勝ち取ることは夢ではない。

金正恩党委員長は11月29日、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」型の発射実験を現地指導し、「今日ついに国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現されたと誇り高く宣布した」(朝鮮中央通信)という。

この「完成」の意味が気になるが、北朝鮮の弾道ミサイルは、飛距離はともかく、核弾頭を大気圏に再突入させる技術については課題を残しているとされる。また、核を搭載する弾道ミサイル潜水艦も建造中だとの情報があったり、労働新聞が12月25日付の論説で「今後も平和的宇宙開発を一層推し進める」とロケット発射の可能性を示唆したりするなど、どうやらしばらくはミサイル発射が続きそうな気配だ。

しかしそれにしても、北朝鮮による一方的な停止宣言が近づいているのは確かだろう。金正恩氏はおそらく、2015年8月の出来事を境に、国際社会による制裁への備えを強化したはずだ。

同月、北朝鮮と韓国が対峙する軍事境界線の非武装地帯で、北側の仕掛けた地雷に韓国軍兵士2人が接触して爆発。身体の一部を吹き飛ばされる重傷を負う事件が発生した。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

これがきっかけとなって軍事危機がエスカレートし、一触即発の事態に発展。朝鮮半島には戦争前夜の空気が漂うことになる。

そして、南北はすんでの所で高位級会談を開き、40時間以上にも及んだ交渉により危機を収束させた。だが、危機回避の南北合意は、双方が五分五分の関係で到達した結果ではなかった。韓国政府が強硬姿勢で北朝鮮を屈服させ、謝罪に追い込んだのである。

金正恩党委員長が、大きな屈辱を味わったであろうことは想像に難くない。「核戦力さえ整っていれば」と悔しがったのではないか。実際、北朝鮮側は早くも9月には「謝罪などしていない」と言い始め、合意に含まれていた南北交流の拡大も反故にされるのだ。

北朝鮮の軍事力は、核兵器抜きでは話にならないレベルにある。いま、北朝鮮で最も飢えているのは軍隊だと言われており、性虐待の横行など軍紀も乱れきっている。とても戦争どころではないのが本当のところだ。

(参考記事:金正恩氏の「ポンコツ軍隊」は米軍に撃たれる前に「腹が減って」全滅する

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

いずれにしても、北朝鮮が2015年8月頃から備蓄に力を入れたとしたら、そろそろ息切れする時期に来ているようにも思える。

金正恩氏は今年、早期に制裁解除に向けた外交戦にシフトするためにも、早い時期からミサイル発射や核実験などの動きを加速させるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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