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金正恩氏の「美貌の姉」の素顔…画像を世界初公開

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏の異母姉・金雪松氏

北朝鮮「女人天下」の知られざる深奥(3)

北朝鮮の朝鮮労働党は、10月7日に開いた党中央委員会第7期第2回総会で、金正恩党委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏を党中央委員会政治局委員候補に選出した。金与正氏は、正恩氏の現地視察に同行する姿が北朝鮮の公式メディアにより写真や動画で伝えられており、今後、兄の国家運営の補佐役となっていくことが予想されていた。政治局委員候補への選出は、その見方を裏付けるものと言える。

父である故金正日総書記を、妹の金慶喜(キム・ギョンヒ)元党書記が支えたのと同じ構図である。

似顔絵でわかる顔立ち

一方、金正日氏は妹に当てた遺書で「金雪松(キム・ソルソン)を正恩の幇助者(助言者)として準備させ後押しするように」と指示していたとされる。正恩氏の異母姉・金雪松氏が長らく父の秘書役となり、権力中枢で党官僚としての経験を積んできたのは、これまでに述べたとおりだ。

(参考記事:謎の長身美女「金雪松」のすべて

ただそれでいて、金雪松氏はこれまで一度も北朝鮮の公式メディアに登場していない。金正日氏のロシア訪問時に随行したと言われているが、そのような限られた機会を除き、外国人が金雪松氏と接することはなかったと思われる。つまり、我々はほとんど誰も、金雪松氏の顔を知らないのだ。

しかし、デイリーNKジャパンは今回、金雪松氏である可能性の極めて高い女性の写真を入手した。提供してくれたのは、脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表である。李氏はこの写真について、次のように説明する。

赤く囲んだ女性が金雪松氏。隣が金玉氏(提供:李潤傑氏)
赤く囲んだ女性が金雪松氏。隣が金玉氏(提供:李潤傑氏)

「これは、金正日が死亡した2011年12月、遺体が安置された錦繍山記念宮殿(当時。現在の名称は錦繍山太陽宮殿)を党の高位幹部らが弔問した際の映像のキャプチャ画像です。一般には公開されておらず、幹部たちだけが見ることのできる記録映画として制作された映像を、北朝鮮国内の協力者から入手しました。ここに写っている右端の女性(赤い囲み)が金雪松です」

では、この女性がなぜ、金雪松氏だと言うことができるのか。李氏が続ける。

「写真右端から2人目の女性(青い囲み)は、金正日の5人目の妻であったとされる金玉(キム・オク)です。彼女の顔は広く知られており、容易に確認することができます。さらに、彼女らと一緒に整列した幹部たちの中に、海外でも良く知られた人物の顔を見つけることができます(画像)

1人は党組織指導部第1副部長の金京玉(キム・ギョンオク)、もう1人は李スヨン駐スイス大使(兼党組織指導部副部長:当時)です。金京玉はこのとき、北朝鮮の官僚機構の頂点にいた人物です。現在も同部の軍事担当第1副部長であり、権勢は変わりません。映像でも弔問を取り仕切っていた様子がわかります。また、李スヨンはその後、外相を経て党副委員長にまで上り詰めました。つまり、ここに揃った面々は文字通り、北朝鮮の最高幹部たちであるということです。

そして、その中にたった1人だけいる若い女性は誰なのか。しかも、金正日の妻だった金玉の隣に立っている。この状況で、この位置を占められる若い女性と言えば、金一族の一員であり、党組織指導部の幹部として活動していた金雪松以外には考えられません」

筆者は、李氏のこの主張に全面的に同意する。

筆者だけではない。デイリーNKジャパン編集部が日韓の複数の北朝鮮専門家に写真を見せて意見を仰いだところ、全員がほぼ同様の見解を示した。デイリーNKジャパンは今回の写真公開に先立ち、金雪松氏の似顔絵も公開しているが、たとえば韓国の有力シンクタンクである世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)統一戦略研究室長は、「写真も似顔絵も、金雪松に間違いないと思われます」と回答した。

ちなみに金雪松氏については、かねてから「顔立ちのはっきりした長身美人」との情報が伝えられていた。顔立ちは似顔絵の方がよくわかるのだが、写真を見ると、たしかになかなかの長身である。

(参考記事:似顔絵を初公開!金正恩氏の美貌の姉「金雪松」はこんな顔だった

ちなみに、金雪松の名前をインターネットで検索すると、ある女性の写真が出てくる(画像)。しかしこの女性よりは、今回公開した写真の金雪松氏の方が、伝えられていたイメージとずっと近いように思える。

今回公開した写真は、単に金雪松氏の顔が確認できるというだけではなく、非常に重要な意味を持っている。金雪松氏が、北朝鮮の官僚機構の中で確かに重要な地位を占めていたことがわかったのだ。そこに、金正日氏の遺書の内容も合わせて考えれば、金雪松氏は正恩氏のそばにいて、国家運営にかかわる彼の判断に強い影響を及ぼしてきた可能性が高いのだ。

それにもかかわらず、彼女の動静を踏まえた北朝鮮研究や報道は、これまでほとんど出ていない。私たちは、北朝鮮の動向にこれだけ大きな関心を向けながらも、今なお多くの重要な情報を見落としているのである。(つづく)

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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