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金正恩側近としてのさばる極悪「性犯罪」容疑の男

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(労働新聞より)

北朝鮮の金正恩党委員長が、変態性欲スキャンダルの醜聞に塗れた人物を朝鮮労働党の最重要部門のトップに就かせたという説が浮上している。

正恩氏の「極太ズボン」

北朝鮮の武力挑発は、9月15日に中距離弾道ミサイル「火星12」型を発射して以来、約2ヶ月間止まっている。この不気味な沈黙について、筆者は金正恩氏の目下の関心事が米国や国際社会に対する挑発ではなく、内政に向いているからだと見ている。

韓国の情報機関である国家情報院は2日の時点で、ミサイル発射の兆候が見られると分析しつつ、朝鮮労働党の人事における変化と何人かの幹部が粛清されたと報告した。

この中で最も気になるのは、金正恩氏の側近の一人である崔龍海(チェ・リョンヘ)氏の職責が「朝鮮労働党組織指導部長と推定される」と報告されたことだ。

崔氏は、故金日成主席の盟友でもあった崔賢(チェ・ヒョン)元人民武力部長(国防相に相当)の息子という経歴ゆえに、金正恩氏の側近の地位を維持している。しかし女性問題、それもほとんど性犯罪とも言えるほどの変態性欲スキャンダルを起こした過去を持ち、失脚と復活を繰り返してきた札付きの極悪幹部だ。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

悪名高い崔氏のような人物が、朝鮮労働党組織指導部長になるというのは少し考えづらい。なぜなら、組織指導部は高級幹部の粛清権に最も影響力を持つ最重要部門だからだ。

人間をミンチに

組織指導部の任務は、高級幹部の人事と、権力層の思想や動向などをチェックすることだ。異変があれば秘密警察である国家保衛省(当時は国家安全保衛部)でさえも手足のように使い、場合によっては粛清を企画してきた。

2013年12月に、金正恩氏の叔父である張成沢(チャン・ソンテク)氏が粛清・処刑された事件、2015年4月に当時の人民武力部長だった玄永哲が人間を「ミンチ」と化すような残忍な方法で処刑された事件。いずれも組織指導部が深く関わっていると見られる。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

金日成時代には、金正恩氏の父である金正日総書記が組織指導部長を務めたこともある。その絶大な権力ゆえに「党の中の党」という異名もある。

金正日死後、部長職は空席で3人の第一副部長が実務上のトップとして部門を束ねてきた。先述の張成沢氏も、第一副部長を務めたことがある。一時期とはいえ自らトップを務めた部門によって粛清・処刑に追い込まれる──冷徹な北朝鮮政治を象徴する機関といえるだろう。

同時に、誰がこの部門のトップかによって、金正恩体制の権力構造が見えてくるだけに注目の人事なのだ。それゆえに、北朝鮮国内で極悪幹部として知れ渡っている崔龍海氏が第一副部長ならともかく、金正日氏が務めた部長になるというのはいささか疑わしい。

そもそも金正恩氏は、崔氏を軽んじているふしがみられる。少し間抜けな話だが、2015年秋には金正恩氏がコダワリを持っていると見られる極太ズボンをめぐって、崔氏は公衆の面前で恥をかかされたという噂さえあるのだ。

(参考記事:金正恩氏が極太ズボンで部下を殺す日

金正恩氏にとって、崔氏は自分の権力を誇示できる都合のいい幹部に過ぎないと見られる。そうした人物に絶大な権力を持つ組織指導部長の椅子を与えるだろうか。逆に言えば、崔氏を部長に就かせたとすれば、金正恩氏の指導者として資質を改めて疑問視せざるをえない。

崔龍海氏の組織指導部長就任説の真偽はともかく、金正恩氏がいつまで経っても極悪幹部を側近として重用している限り、金正恩体制に未来はないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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