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各国で締め出される北朝鮮「美女レストラン」の寂しすぎる落日

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
中国で集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員ら

北朝鮮が外貨稼ぎのために、世界各国で展開している北朝鮮レストラン、通称「北レス」。韓国政府によると、世界には約130店の北レスがあり、うち100店が中国に集中している。

しかし、制裁の影響で相次いで閉鎖しているという。

裏では強制売春も

中国や東南アジアなどに展開する北レスの最大の売りは、ウェイトレスも兼ねた美貌の女性従業員たちによる歌や踊り、楽器演奏などのショーだ。近年では、特に容姿端麗なウェイトレスの写真がネットで出回り、韓国の若者たちの間でアイドル並みの人気を博したこともあった。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

しかし、北朝鮮の相次ぐ核・ミサイル実験に対する制裁の一環として、中国商務省は先月28日、北朝鮮の個人や団体によって中国国内に設立された合弁企業などに対し、決議採択の日(現地時間9月11日)から120日以内の閉鎖を求める通知を出した。

閉鎖まで3ヶ月以上の猶予が与えられた形だが、米政府系のラジオ・フリー・アジアは、北レスは期限まで持ちこたえられないだろうと伝えている。

遼寧省瀋陽のコリアンタウンである西塔は、「平壌館」「ムジゲ(虹)」「モランボン」などの店が軒を連ねる、世界一の北レストラン密集地帯だ。ところが、現地の朝鮮族の情報筋によると、 客の激減で一部の店舗はすでに営業を中止し撤収準備に入っており、残りの店舗も年末までの撤収が求められているというのだ。

情報筋が立ち寄った大規模な北レスは、「息を呑むほどの美貌を誇る女性従業員が、歌や踊りで客を楽しませていた」店だった。タイの北レスでは、ウェイトレスたちがAKB48のヒットナンバー「恋するフォーチュンクッキー」を披露するなど、中国の北レス以外でも美貌のウェイトレスたちは客を楽しませるために、汗水を流してきた。

(参考記事:20代美人ウェイトレスを直撃…「北朝鮮レストラン」の舞台裏

それが今では、客が全く入らなくなっている。人気を誇った美貌のウェイトレスらは帰国を前にして寂しそうな表情を浮かべていたという。

別の情報筋も、常連客が足を運ばなくなり、3階建ての平壌館にも1日に3〜4人の客しか来店しない寂れようだと伝える。苦肉の策として、以前は入店を断っていた一見の客や韓国人客も受け入れるようになったものの、焼け石に水だ。

北レスの各店舗には本国から厳しいノルマが課せられている。ノルマが確保できない場合は、違法行為に走ることもあったという。中国・上海の北レスの建物の上階にはVIPルームが設けられており、美貌のウェイトレスたちが、馴染み客の性的接待、すなわち売春を強要されているとの情報もあるが、こうしたことも通用しなくなっているようだ。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上

そもそも、客足が途絶えたのは、国際社会の経済制裁に加えて、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮のイメージが悪化したことが最大の原因だ。それに加え、料理の質に比べて値段が高すぎた点にも原因がある。かつては中国の公務員を接待する場所として重宝されていたが、習近平政権の綱紀粛正キャンペーンの影響で、使えなくなってしまったことも大きい。

このままでは、年末までも持ちこたえられず、廃業に追い込まれるだろうと情報筋は見ている。さらに、北レスの廃業は、中国以外でも起きている。

ベトナムの日本語ニュースサイト、ベトジョーによると、ホーチミン市内の北レス、朝鮮柳京(リュギョン)食堂が9月末をもって閉店した。改修工事のためしばらく休業するとの張り紙があるが、物件はすでに売却済みだという。同サイトによれば、ベトナム国内の北レスは、これで首都ハノイの2店舗のみになった。

一方、韓国の公共放送KBSによれば、中国では北レスの偽物も登場している。遼寧省丹東にできたこの店は、北朝鮮当局ではなく中国人オーナーが、北朝鮮出身の華僑女性を従業員として雇い入れたもので、メニューは日本料理ばかり。北朝鮮レストランならぬ、北朝鮮「風」レストランというわけだ。

国際社会の反発を顧みない核・ミサイル戦略によって、貴重な外貨稼ぎの手段と北朝鮮文化の発信地を失う──金正恩党委員長の自業自得としか言いようがない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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