経済制裁でいよいよ「困窮に直面」し始めた北朝鮮国民の生活

金正恩氏(朝鮮中央通信)

中国商務省は8月、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議を受け、北朝鮮産の鉱物および海産物の輸入を全面禁止する措置を取った。こうした動きを受けて、北朝鮮の市井の人々の生活はいよいよ困窮に直面しているようだ。

「不満」を弾圧

中朝国境にほど近い北朝鮮の羅先(ラソン)経済特区を頻繁に訪れる中国人ビジネスマンは、デイリーNKに現地の状況を次のように語った。

「一時は中国への海産物輸出で大儲けしていた羅先経済特区は、最近の対北朝鮮制裁のせいで物寂しい雰囲気が漂っている。特区内では多くの中国人が水産加工場や縫製工場を営んでいたが、ほとんどが撤収した。さらにはガソリン価格の高騰で、車をほとんど見かけず、町から活気が失われてしまった」

(参考記事:経済制裁が北朝鮮の国民生活を直撃…「核開発は不愉快」庶民感情が悪化

行政機関は予算不足に陥り、地元の保安署(警察署)や保衛部(秘密警察)の担当者は、顔見知りの中国人を見かければ、ガソリンや物品をせびっている。

ある中国人ビジネスマンは、北朝鮮の交通警察から「移動に便宜を図ってやるから、誘導棒と取り締まり用のスピードメーターを調達してくれないか」と持ちかけられたという。

「移動の便宜」とはおそらく検問所をフリーパスで通れるようにすることを指すと思われる。本来ならさらに多額のワイロが必要になるところだが、困窮の度合いが増すにつれ、ワイロの相場が下がったということだろう。

公務員が困窮しているぐらいなので、民間人はなおさらだ。

羅先の市場は、安くて新鮮な海産物を求めて多くの中国人業者、観光客が訪れていた。また今頃は、日本の盆休みに当たる秋夕(チュソク)用の供え物を求める多くの地元民が訪れる時期だ。ところが、中国への海産物の持ち出しができなくなり、中国人の姿が消えた。また、中国業者の撤退で失業し、購買力を失った人が急増したこともあり、市場では閑古鳥が鳴いている。

別の情報筋は、贔屓にしているレストランの20代女性従業員から越冬用のコートを買ってくれないかとせびられたという。平均的な4人家族が1ヶ月暮らすには50万北朝鮮ウォン(約6500円)ほどかかるが、彼女の月給はわずか150ウォン(約2550円)。食事にも事欠く有様で、服を買うことなど夢のまた夢だ。

「毎日同じ服の着たきり雀で気の毒だ」(情報筋)

北朝鮮は、大量の餓死者を出した1990年代の「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉以降、食糧事情が大幅に改善した。しかし、国家による配給システムは破たんしたままで、庶民は現金で食べ物を買わなければならない。

国民経済のなし崩し的な資本主義化が進行し、貧富の格差が広がっている今、貧困層は食べ物の価格がわずかに上昇しただけでも大きな影響を受ける。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

上記のような状況の羅先だが、北朝鮮では一、二を争う豊かな地域だけあって、他の地方よりはかなりマシな方だ。羅先から50キロ離れた地域の状況はさらにひどく、ある住民は月収が50元(約850円)にしかならないため、夜中に田畑に出かけて落穂ひろいをするほど追い詰められているという。

そんな状況に追い打ちをかけるように、中国商務省は先月28日、中国国内外の中朝合弁企業を来年1月までに閉鎖せよとの通知を出した。これで羅先に進出している中国企業は、完全撤退を余儀なくされる。

ことここに至っても、体制の生き残りを何より優先する北朝鮮当局は、庶民の困窮を歯牙にもかけない。不満が爆発しそうになれば、弾圧で応じるだけだ。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

金正恩党委員長は、なおも核兵器開発を止める気配を見せない。北朝鮮の庶民は、どこまで追い詰められていくのだろうか。