金正恩氏「声明」でトランプ氏への怨念をさく裂

金正恩氏(労働新聞より)

北朝鮮の金正恩党委員長は21日、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長名義の声明を発表した。北朝鮮史上初となる最高指導者名義の声明だ。

それゆえに、本来なら極めて重みのある声明となるはずだが、その中身はほぼトランプ米大統領に対する個人攻撃に終始した。トランプ氏への金正恩氏の恨みつらみはピークに達しているようだ。

トイレにもストレス

金正恩氏の怨念といえば、韓国の朴槿恵元大統領に対する執拗な攻撃が思い起こされる。

とりわけ、2015年8月に朝鮮半島の南北が対峙する軍事境界線で北朝鮮の地雷が爆発した事件以後、北朝鮮はことあるごとに朴氏を非難した。当時、南北は一触即発の緊張状態に突入。韓国政府は地雷が爆発する衝撃的な動画を公開しながら強硬姿勢を貫いた。韓国世論も朴政権を後押しし、北朝鮮を謝罪に追い込んだ。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

さらに、米韓軍は北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏に対する先制攻撃を意味する「斬首作戦」を導入し、金正恩氏は大きなプレッシャーを受けることになる。公開活動は激減し、移動の際にはトイレにも細心の注意を払うなど、多大なストレスを抱えることになる。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

こうした中、金正恩氏は朴氏に相当な恨みを抱いたであろう。朴大統領は今年3月、汚職スキャンダルによって罷免され政治生命は終わった。北朝鮮はその後も執拗に彼女を非難した。挙げ句の果てには「処刑」まで宣告したことからも金正恩氏の強い怨念が伝わってくる。

朴氏に交代する形で、金正恩氏にプレッシャーをかける人物として現れたのがトランプ氏だった。今年4月に勃発した米朝対立以後、圧力をかける米国に対して、北朝鮮は弾道ミサイルの発射と核実験で一歩も譲らない姿勢を貫いている。ただし、その強硬姿勢の裏には金正恩氏の本音や弱気が見え隠れする。

北朝鮮は、中距離弾道ミサイル4発を米領グアムに向けて発射する計画を8月中旬までに策定すると表明していた。しかし、直前の14日になって金正恩氏は「(米国の)行動をもう少し見守る」と腰砕けになった。9月の「火星12」型の発射訓練では本音を吐露する発言をした。

(参考記事:「われわれの最終目標は米国と…」金正恩氏が遂に「ホンネ」を吐露か

実は、今回の声明にも金正恩氏の弱気が透けて見える。声明では、次のように述べた。

「私と国家の存在自体を否定し、侮辱し、わが共和国をなくすという歴代最も暴悪な宣戦布告をした以上、われわれもそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するであろう」(21日に発表した金正恩氏の声明より)

「私」が「国家」より先立つことから、自分が侮辱されたことへの怒りが伝わってくる。一方、「史上最高の超強硬対応措置」としながらも、「断行を慎重に考慮するであろう」という極めて曖昧な表現で威嚇した。

声明では、トランプ氏に対して「怖じ気づいた犬がもっと吠え立てるものである」と罵倒したが、正恩氏自身も似たようなものだ。また、精神障害者を罵倒する言葉や「ごろつき」「老いぼれ」など、とても国家元首が口にすべきでない罵詈雑言に満ちあふれている。

北朝鮮の朝鮮中央テレビは、金正恩氏の声明を当日15時(北朝鮮時間)からアナウンサーが読み上げる形で報じた。声明は動画として記録されているはずだが、最高指導者の肉声による罵詈雑言を電波で流すのはさすがに、はばかれたのかもしれない。それとも、より本気度を示すタイミングで公開する狙いか。

金正恩氏の「史上最高の超強硬対応措置」という言葉について、国連総会に出席するために米・ニューヨークを訪れている李容浩(リ・ヨンホ)外相は、「おそらく歴代(最大)級の水爆実験を太平洋上で行うことになるのでは」と述べた。金正恩氏が本気でこのようなことを考えているとするなら常軌を逸している。

ただし、李氏の言い方も歯切れが悪かった。また「国務委員長(金正恩氏)がすることなのでよく分からない」と、なんとなく他人事のような物言いで前置きしている。金正恩氏の個人的怨念に終始した声明に従わなければならない李氏の苦しい思いが伝わってくるようだ。

いずれにせよ、米朝対立、いやトランプ氏と金正恩氏の対立は当分収まらないだろう。暴言癖を持つと言われているトランプ氏が金正恩氏を罵倒するのはさもありなんかもしれない。一方、金正恩氏は自身の名義で声明を出しただけに、もはや撤回も言い訳も不可能だ。

金正恩氏は、結果的にトランプ氏が仕掛けた極めて品のない舌戦に引きずり込まれてしまった。いや、自尊心が人一倍強い金正恩氏のことだけに、自ら受けて立ったつもりかもしれない。しかし、舌戦の先にあるのは単なる「史上最低」の罵倒合戦に過ぎない。