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「恐怖に震える北朝鮮女性が600人以上も…」中国で大規模な人身売買被害

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

タイの入管当局によると、同国には今年の上半期だけで、385人の脱北者が入国したという。2016年は1年間で535人だったのと比べると、かなり早いペースに思える。

だが、このペースが今後も続く可能性は低い。中国当局が、脱北者の取り締まりを強化しているためだ。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

地獄のような虐待

韓国の聯合ニュースが10日、香港発で伝えたところでは、中国当局は昨年以降、脱北をサポートするキリスト教関係者を大量に国外追放したという。ある脱北者支援団体の代表が聯合に語ったところでは、中国当局は従来、脱北者情報の通報者に報償を出すだけだったが、最近では脱北者を隠したり、雇用したりした人を処罰する方針を取っている。

北朝鮮との国境地帯に当たる中国東北地方は人手不足に悩んでおり、脱北者情報を当局に知らせて報償を受けるよりも、安い人件費で使うことを選ぶ企業や商店主も多いのだろう。しかし、当局から罰せられるとなると、そうも行かなくなる。

一方、別の支援団体の代表は聯合に対し、「(中国にいる)脱北女性のうちの相当数は、人身売買されて悲惨な目に遭っている」「600人以上の脱北女性が暮らす地域の活動家を送ったが、怯え切っていてまったく助けを受けようとしない」と語っている。それも理解できなくはない。身分が露呈して北朝鮮に強制送還されたら、地獄のような虐待が待っているのだから。

(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

それにしても、中国当局が脱北者の摘発を強化しているにもかかわらず、これだけの脱北女性が中国になおも留まっているとは、人身売買がいかに広範囲に行われてきたかを物語っている。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

日本の安保に直結

普段、日本のメディアに登場する脱北者の多くは、韓国に定着し、様々な悩みを抱えながらもどうにか自分の力で生活を営んでいる人々だ。

しかし実際には、命がけで国境の川を越えながら、明るい未来の入り口にすら立てず、場合によっては北朝鮮にいた時よりも悲惨な目に遭っている人々の方が多いかもしれないのだ。

北朝鮮と地続きの中国にこのような状況が残ったままでは、北朝鮮の人々の中から「国を変えよう」といううねりが生まれるのは難しいのではないか。もはや北朝鮮の民主化――すなわち独裁の打倒なくして、朝鮮半島の非核化はない。

今や中国における脱北者の人権問題は、日本の安全保障問題とも直結しているのである。

(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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