金正恩氏の核実験が強いる「被ばく労働」の恐怖
北朝鮮の相次ぐ核実験により、それに伴う放射能の脅威が懸念されている。
北朝鮮は、これまで6回の核実験を強行した。そのうち4回は金正恩時代になってからのもので、とくに昨年9月からの1年間で3回も行われている。
500人死亡の地獄絵図
米ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」は5日、衛星写真の分析を基に北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)郡の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場付近で、核実験後に多数の地滑りが起きたことを明らかにした。
豊渓里は、標高1000メートルを超える山々が連なる山岳地帯に位置することから、人的被害が起きた可能性は低いかもしれない。仮に被害が生じていたとしても、体制にとって都合の悪いことを隠蔽する北朝鮮当局が、その事実を明らかにすることはない。
過去、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたことがある。しかし、北朝鮮当局は事故そのものを隠蔽し、詳細は一切明らかにされなかった。
(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮の橋崩落事故、500人死亡の阿鼻叫喚…人民を死に追いやる「鶴の一声」)
中国メディアからは、度重なる核実験によって、豊渓里付近の山岳地帯が崩壊し、大規模な放射能漏れが起きることを懸念する声が出始めている。
遺体は放射性廃棄物扱い
韓国統一省の趙明均(チョ・ミョンギュン)長官は5日、核実験により北朝鮮住民が被ばくした可能性は十分にあると述べた。
実は、豊渓里近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成〈ファソン〉収容所)が存在する。ここに収容された政治犯が、核実験施設で防護服なしで強制労働させられているという情報がある。
収容所の警備兵出身で脱北者の安明哲(アン・ミョンチョル)氏は、「若くて元気な政治犯たちがトラックに乗せられ、『大建設』という名目で核実験施設に連れて行かれた」と証言している。
(参考記事:北朝鮮、核施設で「強制被ばく労働」させられる政治犯たち)
政治犯収容所では、拷問、公開処刑などありとあらゆる人権侵害が常態化しているが、強制的な被ばく労働も隠れた人権侵害の一つと言えよう。北朝鮮当局からすれば政治犯は「敵対勢力」であり、強制労働させても被ばくさせても何ら罪の意識を感じないようだ。
(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も)
核実験場という性格上、建設は秘密裏に行われるめ一般住民は動員しづらい。しかし、政治犯ならよほどのことがない限り情報は漏れず、万が一のことがあっても隠蔽しやすい。被ばくによる死者が出ると、遺体は放射性廃棄物扱いされ統制区域に埋められるという。
核実験場ではないが、北朝鮮のウラン鉱山で働く労働者の平均寿命はその他の地域に比べ著しく短いとも言われている。
(参考記事:北朝鮮、ウラン鉱山近辺で深刻な放射能汚染)
北朝鮮は核兵器開発を「米国の脅威に対する正々堂々たる自衛的措置だ」と言って正当化しているが、実態としては周辺国の安全と平和だけでなく、自国民の安全を著しく脅かしているのである。