北朝鮮の高校生を絶望させる「残酷な夏休み」
北朝鮮当局が、高級中学校(高校)の校舎の増築工事に、その学校の在校生を動員していると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。
現場となっているのは首都・平壌に隣接する平安南道(ピョンアンナムド)の成川(ソンチョン)高級中学校だ。今月1日から夏休みに入ったが、学校当局は生徒たちをかき集め、校舎本館の建物を2階建てから3階建てに増築する工事でこき使ったという。
一部は「暴走」
北朝鮮当局はことあるごとに、理由をつけて子供たちを労働現場に引っ張り出す。その内容も情け容赦ないもので、大人でも疲弊する過酷なものだ。
北朝鮮の子供たちは、そんな環境を当たり前に思っている可能性もあるが、やはり夏休みは楽しみであるはずだ。それを残酷に奪うとは、北朝鮮当局の無慈悲さには戦慄を覚える。少年少女らの権力への反抗が強まり、一部で「暴走」が起きている理由もわかるような気がする。
(参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル)
増築工事に動員された生徒たちは1日たりとも休むことを許されず、ブロックや砂などの重い資材を背負って運ぶことを強いられた。短い夏休みが終わり、16日から新学期を迎えたが、生徒たちは、教室の塗装に必要なペンキを集めさせられるなど、ノルマの重圧に苦しめられ続けているという。
その一方、経済的に余裕のある家庭の子は、教師に2万北朝鮮ウォン(約260円、コメ3.5キロ分に相当)のワイロを払って、堂々とサボっているという。
情報筋によると、生徒たちが線路や道路などの都市美化作業に動員されたり、物品の供出を強いられたりする事例は今までもよくあったが、学校の増築工事に動員された例は思い当たらないという。その理由は明らかになっていない。
生徒たちを建設工事に動員することは、北朝鮮も批准している児童の権利に関する条約の6条(生命権)と29条(教育権)に違反している可能性がある。
同条約の、6条の1項では「締約国は、すべての児童が生命に対する固有の権利を有することを認める」と定めている。また、29条の1項(a)では、児童への教育が行なうべきこととして「児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること」と定めている。
(参考記事:北朝鮮企業が少女たちの「やわらかい皮膚」に目をつけた理由)
奪われてしまったせっかくの夏休み。それでも高校生たちは、それなりに楽しもうとしているようだ。最も人気なのが、映画を見ることだ。
以前なら韓国映画を見るところだが、当局の取り締まりが厳しく、見つかれば少年教化所(少年院)送りになると学校から脅かされているため、代わりに米国映画とインド映画を楽しんでいる。
米国映画は、タイトルはわからないがハイジャック事件をテーマにしたものがスリルがあって面白いと評判だ。また、インド映画はラブサスペンスの「ガジニ」(Ghajini)が人気だという。