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いま再び気になる「金正恩が兄の遺体を八つ裂き」説の真偽

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

今年2月、マレーシアで殺害された金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏の遺体をめぐり、正男氏の息子であるハンソル氏はマレーシア当局に対し、正男氏の遺体を「金正恩氏に渡さないでほしい」と要望していたという。

「八つ裂き」説も

2日付の朝日新聞は、ハンソル氏がマレーシア当局に、「いかなる理由があっても遺体を叔父の金正恩氏や北朝鮮政府に渡さないでほしい」と訴えていたと伝えた。

ハンソル氏がそこまで強く要望した裏には、父の遺体が北朝鮮に回収され事件がうやむやになることが許せないという息子としての切実な思いがあったと思われる。

北朝鮮当局は死亡した人物について、あくまで北朝鮮の外交旅券を持った「キム・チョル」だと主張しながら、遺体の引き渡しを求めていた。

こうしたなか、ハンソル氏は3月、インターネット上に動画を公開し、「私の父が殺された」と明言。北朝鮮の主張に対して真っ向から反論した。

(参考記事:北朝鮮権力に「虐殺者の3代目」vs「罪なき4代目」の新たな構図

現在、北朝鮮で金正男氏の遺体がどのように扱われているかを知るのは不可能だが、「正常」とは言えない形で処理されている可能性が指摘されている。

韓国の国会議員である河泰慶(ハ・テギョン)氏は、事件直後に開かれた韓国国会の緊急最高委員会で「北朝鮮が金正男氏の遺体引き渡しを要求しているのは『剖棺斬屍』を行うため」だとの見方を示した。「剖棺斬屍」とは、一度埋葬した遺体を掘り起こし、八つ裂きにするなど遺体を損壊する、中世に行われていた極刑中の極刑だ。

(参考記事:北朝鮮は金正男氏の遺体を引き取ってどうするつもりなのか

八つ裂きはなかったとしても、金正男氏の存在は故金正日総書記の女性遍歴につながるものでもあり、北朝鮮当局はどうしても国民に明かせないのだ。

(参考記事:金正日の女性関係、数知れぬ犠牲者たち

朝日新聞によると、ハンソル氏は金正恩氏に遺体を渡さないでほしいという要望を伝えながら、遺体の身元確認に協力した。要望は3月上旬までに、政府高官らの間で共有されたという。ハンソル氏の動画が公開されたのが3月7日だったことを考えると、動画は、遺体を守るためのメッセージでもあったのだろう。

ハンソル氏は、海外生活が長いようだが、父・金正男氏が置かれた複雑な事情を知っているからこそ、北朝鮮が遺体の回収をすることに抵抗を試みたのかもしれない。

そのハンソル氏が、現在どこで何をしているのかもまったく伝わってこない。いきなり表舞台に登場して、政治的な動きを見せるようなことはないだろう。しかし、彼は既に北朝鮮当局に真っ向から反論した身である。金正恩氏にとっては許されざる存在だ。

ハンソル氏が、非人道的な金正恩体制に対して何らかの政治的アクションを起こした時、金正恩氏にとっては実に都合の悪い存在となるかもしれない。

(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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