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金正恩政権も手を焼く北朝鮮版「半グレ」の正体

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮の北東部、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)市で強盗事件や窃盗事件が多発している。住民は戦々恐々としているが、保衛署(警察署)は手をこまねいてみているだけで、取り締まりすらしようとしない。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、市内全域で最近、武装スリ団が通行人のカバンを刃物で切って中のものを盗んだり、空き巣に入ったりする事件が続発している。夜道では毎晩のように被害者の悲鳴が聞こえるありさまだという。

この一団は20代中盤までの、成長して「半グレ」と化したコチェビ(ストリートチルドレン)のグループと思われ、緻密な計画のもとに組織的に行動している。小奇麗な格好をしているため、まさか窃盗団だとは気づかれないという。

事件の増加の背景には、市場経済化の進展による貧富の格差の拡大がある。

清津には北朝鮮最大規模と言われる水南(スナム)市場や、トンジュ(金主、信仰富裕層)が主に利用する浦港(ポハン)市場などがあり、市場に関わっている人は他の地域より多い。つまり、それだけターゲットが多いということだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

市場経済化の波にうまく乗れずに取り残された負け組は、真面目にコツコツと仕事をしたところで、リッチになれる見込みはない。中でもコチェビはまともな仕事にありつくことすら難しい。そんな不条理な社会への不満から犯罪に走るのだ。

今年3月に撮影された、清津市の裏通りで遊ぶコチェビたち(画像:デイリーNK)
今年3月に撮影された、清津市の裏通りで遊ぶコチェビたち(画像:デイリーNK)

事態が深刻なレベルに達し、保安署(警察署)には通報が相次いでいる。状況は認識しているが、何もしようとしない。貧富の差が根本的な理由であるため対策を立てようがなく見て見ぬふりをしているというのだ。

保安署は、窃盗団に仕事を与えるなどの対策を取るべきだが、関わり合いになりたくないようで、取り締まりすらしようとしないと情報筋は嘆いた。

(参考記事:薬物中毒・性びん乱の次は「同級生殺人」 北朝鮮の少年少女が暴走中

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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