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金正恩氏は「特別なトイレ」のおかげで命拾いしていた

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

朝日新聞は26日、韓国の対北朝鮮政策に詳しい関係筋の話として、「朴槿恵(パククネ)前政権が2015年末以降、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長を指導者の地位から追い落とす工作を行おうとした」と報じた。「正恩氏の暗殺も選択肢とした政策だった」という。

事実ならば、極めて興味深い話だ。韓国の国家情報院は全面否定しているが、実際にこの間、北朝鮮では正恩氏の暗殺計画とも思われる動きが露見した様子があり、北朝鮮当局もまた、「米韓が暗殺を目論んでいる」という趣旨の非難を行ってもいる。

ただ、このような動きは、デイリーNKジャパンが逐一報じてきたことでもある。

たとえば、暗殺を恐れて疑心暗鬼になった正恩氏が、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏に動線を点検させているという部分がそうだ。母親のルーツが日本の大阪にあり、北朝鮮国内に頼れる親族がほとんどいない正恩氏にとって、血を分けた妹はただひとり信じられる相手なのかもしれない。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈

また、「正恩氏は毎晩、ワイン、ウイスキー、コニャックの順で浴びるように酒を飲む」という話も、北朝鮮ウォッチャーの間ではよく知られている。元NBA選手のデニス・ロッドマン氏が訪朝した際には、呼び集められた名門学院の女学生たちが涙を流すほどの乱痴気騒ぎをしたという。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

筆者がここで言わんとするのは、とかく「謎の国」として論じられる北朝鮮の動きも、努力しだいで読める部分があるということだ。デイリーNKジャパンは特別な「極秘情報」だけに基づいて報道を行っているわけではない。むしろ、誰でもアクセスできる公開情報の中にも、正恩氏の動向を探る手掛かりはあるのだ。

しかしさすがの朝日も、正恩氏の「トイレ情報」にまでは言及していない。一般人と同じトイレを使うわけにいかない正恩氏は、地方出張の際にも自分用の特別なトイレを持ち歩いているという。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

米韓は少し前から、北朝鮮に対するピンポイント攻撃能力を強化している。韓国空軍は昨年、自国領空から北朝鮮全域を攻撃できるドイツ製の空対地ミサイル「タウルス」の実戦配備を始めた。また韓国メディアによれば、在韓米軍も最近、同様の能力を持つ空対地ミサイル「AGM-158 JASSM」の実戦配備を始めたもようだ。現地視察中の正恩氏の姿が偵察衛星で捉えられたなら、いつ発射ボタンが押されてもおかしくはないのだ。

正恩氏が、自分が「もっとも無防備になる瞬間」を気にしたとしても、まったく不思議ではないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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