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性的搾取の「被害女性」をなぜか処罰する北朝鮮

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮人権白書を読む(5)

北朝鮮を脱出し、韓国入りした人(脱北者)の数は累計で3万人を超えているが、中国にはこれよりはるかに多くの脱北者が潜伏していると言われている。その数は一説に10万人を超えるとも言われる。

だが、韓国の政府系シンクタンク・統一研究院が発表した「北朝鮮人権白書2017」(以下、人権白書)によれば、中国に潜伏する脱北者の数は近年になって、大きく減少しているという。

主な理由は3つある。ひとつは、北朝鮮当局が国境の監視を強化していること。もうひとつは、北朝鮮国内で市場での商売が盛んになるなどして生活に余裕が出来、かつてほど「生き延びるための脱出」を試みる人が多くはなくなっているためだ。

そしてもうひとつは、中国当局が脱北者の摘発を強化し、北朝鮮へどんどん送り返していることがある。

人権白書によると、中国当局はとくに、北朝鮮女性をねらった組織的な人身売買の摘発に注力しているという。人身売買の被害に遭った北朝鮮女性は、中朝国境から遠く離れた黒竜江省まで売られていくケースもあるようで、また少なくない被害者が、アダルトビデオチャットなどの性風俗業に従事させられている。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

中国当局も、こうした状況については憂慮しているようで、摘発が強化された結果、「大規模な組織的人身売買は根絶されたようだ」と人権白書は指摘している。

しかしこのことは、被害者たちが救済されていることを意味してはいない。北朝鮮当局は送還されてきた人身売買被害者に対し、他の脱北者と同様の罰を与えているという。

(参考記事:刑務所の幹部に強姦され、中絶手術を受けさせられた北朝鮮女性の証言

人権白書に収録されたある脱北者の証言によれば、かつてはごく短期の脱北ならばとくに罪には問われなかったものが、現在では中国に1歩踏み入れただけで2~3年の労働教化刑(懲役)に処せられるという。人身売買の被害者も、これと同じ扱いを受けているというのだ。

その理屈は、「中国に売られると知りながらブローカーと接触したに決まっているから」という驚くべきものだ。北朝鮮当局が国民に対し不寛容であることはとっくの昔にわかっていたが、さすがに開いた口が塞がらない。

これもまた、北朝鮮の歴代最高指導者たちの、歪んだ女性観の表れと言えるのではなかろうか。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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