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北朝鮮の「スパイ候補生」が脱北するも「妹を置き去り」に出来ず…

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

工作員としての訓練を受けていた北朝鮮の大学生とその妹ら3人が、脱北を図ったが中国で逮捕され、北朝鮮に強制送還された。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、脱北を図ったのは、金正日政治軍事大学の男子学生と、女性2人の計3人だ。彼らは両江道から、国境の川・豆満江を挟んで向かい合う中国吉林省の長白朝鮮族自治県に逃げ込んだ。

過酷な運命

これを察知した北朝鮮当局は、道内の恵山(ヘサン)や普天(ポチョン)、三水(サムス)などに3人の指名手配書を張り出し、「何が何でも逮捕しろ」との指示を下した。また、道の保衛局(秘密警察)の反探処(防諜部門)の要員を長白県に浸透させると同時に、中国の公安当局に捜索への協力を要請した。

その結果、3人は逮捕され、北朝鮮に強制送還された。取り調べの過程で3人が兄妹であることが明らかになったという。

3人が脱北を試みた理由について情報筋は、家族が先に脱北して韓国に住んでいることが判明し、卒業を目前にして退学処分を受けたことと、その後も国家保衛省の要員に監視、尾行され続けたことに不満を抱いたため、と説明している。

保衛部員は「危険人物」の監視や取り締まりも行うが、強大な権力を背景にした「恐喝ビジネス」でも知られる。学生らも同様に、理不尽な脅しに苦しめられていたのかもしれない。

(参考記事:口に砂利を詰め顔面を串刺し…金正恩「拷問部隊」の恐喝ビジネス

情報筋はまた、男子学生は特殊訓練を受けただけあって、いくらでも追跡を振り切れただろうが、妹を見捨てることができず捕まってしまったようだと述べた。3人の前途には処刑も含め、過酷な運命が待ち構えていると予想される。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

金正日政治軍事大学は一般の大学とは異なり、朝鮮労働党や朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の幹部や、韓国に送り込む工作員を養成する特殊教育機関だ。

東京新聞が入手したこの学校の工作員養成用テキストには、拉致の手法などに関して詳細に記述されている。

(参考記事:抵抗したら殺せ…北朝鮮「拉致指令」の動かぬ証拠

入学者には、体力や学力はもちろんのこと、国への忠誠心の高さも要求される。徹底した思想教育に加え射撃、格闘技、撮影、運転、極限状態でのサバイバルなど工作員としての特殊訓練を受ける。

この学校の公開された住所は架空のもので、実際は平壌市の北の郊外、核やミサイルを含む様々な兵器の研究・開発を行う第2自然科学院の隣にあると伝えられている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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