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金正男氏殺害に対する北朝鮮国内の反応が伝わって来た

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正男氏(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の故金正日総書記の長男で、金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害される事件が発生してから3日が経った。北朝鮮当局は沈黙を守っているが、このニュースは、中国と行き来する人々を通じて、北朝鮮国内でも徐々に広がりつつある。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、金正男氏殺害の一報を聞いた人々は「明らかに我が共和国(北朝鮮)の仕業だ」と言った反応を示している。

大阪との奇縁

また、「白頭の血統(故金日成主席の肉親)を殺すなんて…」などと驚きを隠せない人がいる一方で、「金正恩は叔父(張成沢氏)も殺したのに、兄弟だからと殺せないわけがない」「長期政権のために予定されていたこと」などと語る人もいるという。

(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者

こうした情報の媒介となっているのは主に、外国からの情報に頻繁に接しており、北朝鮮の人々の間ではニュースソースとして信頼されている在北朝鮮華僑だ。当局は彼らに対して締め付けを強化しているものの、活動を完全に統制するまでには至っていないようだ。

一方、北朝鮮の貿易関係者にも、このニュースは伝わっている。彼らにとって、金正男氏の名前は聞き慣れたものだ。それは金正男氏がかつて、北朝鮮が国家運営の維持に必要な秘密資金を調達するために行っている密輸を取り仕切っていたからだと、中国遼寧省で長年貿易に携わってきたデイリーNK内部情報筋は語った。

金正恩氏が、兄の金正男氏の殺害命令を下した背景について、この情報筋は次のように語った。

「中国情報当局の保護を受けており、世界各国に地盤を持っていたことが金正恩氏にとって恐ろしい存在だったのだろう」

「国際的な孤立に陥っている今の指導者(金正恩氏)は、大胆で物怖じしない性格の金正男氏のことが気に食わなかっただろう」

(参考記事:金正男氏を死に追いやった「暴露スクープ」の中身

情報筋はまた、金正恩氏が抱えている「血筋の問題」についても言及した。

「金正男氏は、在日同胞出身の母(高ヨンヒ氏)を母に持つ金正恩氏より、原種(正当な血筋)と言えよう」

(参考記事:金正恩氏を悩ます「大阪の血脈」と「最愛の妹」の危機

金正恩氏の母の高ヨンヒ氏は大阪市生野区鶴橋で生まれ育った元在日朝鮮人。資本主義を知る在日朝鮮人の帰国者は、北朝鮮国内では国家から差別的な待遇を受けてきた。一方で、金正男氏の母のソン・ヘリム氏は、現在の韓国の慶尚南道昌寧郡生まれである。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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