Yahoo!ニュース

金正恩氏の兄は「有能なギタリスト」だった!

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団

昨年夏に韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使が25日、ソウル外信記者クラブで記者会見した。朝日新聞26日付によれば、テ氏はこの席で、金正恩党委員長の実兄・金正哲(ジョンチョル)氏について、「政治に関心がなく、役職もない。音楽に関心があり、有能なギタリストだ」と語ったという。

正哲氏は世界的なギタリスト、エリック・クラプトンの大ファンとして知られ、これまでにドイツとシンガポール、イギリスで行われたコンサート会場を訪れた様子がメディアによってキャッチされている。一昨年の5月、ロンドンでコンサートが行われた際には、テ氏も会場に同行したとされる。

国民には「厳罰」

正哲氏は北朝鮮国内で「新星組」というロックバンドを組むよう指示したと伝えられるほど、欧米のロックやポップスを好んでいると言われている。だが、彼自身もギターの腕が良いというのは初耳である。

ちなみに、ロンドンを訪れた際には美貌の女性が同行していたが、彼女もまた、ギタリストであることがわかっている。カン・ピョンヒという名前の、北朝鮮版ガールズグループ、モランボン楽団のメンバーだ。彼女と正哲氏の関係は詳らかでないが、正恩氏の夫人である李雪主(リ・ソルチュ)氏が元歌手であることを考えれば、交際していたとしても不自然ではない。

そういえば、彼らの母である高ヨンヒ氏も舞踊家出身だが、故金正日総書記と正恩氏が、親子ともども劇団出身の妻をめとったことを揶揄した人々が、無残に銃殺されるといった事件が過去にはあった。

(参考記事:美貌の女性らが主導…北朝鮮芸術家「ポルノ撮影」事件の真相

それにしても、国民に対しては韓流ドラマを見たというだけで厳罰を与えながら、金王朝のファミリーは欧米の文化に染まり放題というのは、何とも理不尽だ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

テ氏は10年にわたるイギリス生活で、息子がすっかり西側の文化に染まり、北朝鮮に連れ帰るなど考えられない状況になっていたと伝えられる。

(参考記事:亡命した北朝鮮外交官、「ドラゴンボール」ファンの次男を待っていた「地獄」

仮に一家で北朝鮮に帰国した時の恐怖と、正哲氏の気ままな生活を比べてみたとき、自分にとって祖国とは何なのかと考えずにいられなかったのではないか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事