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一家全員が乱用…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮において、覚せい剤などの危険な薬物の被害・犯罪が深刻であることが明らかになった。

本欄でも指摘したとおり、フィリピン下院で今月10日に行われた聴聞会で、刑務所内で出回っている覚せい剤の相当部分が北朝鮮製であるとの証言が飛び出した。また、韓国の有力日刊紙「東亜日報」で十余年にわたって記事を書き続ける脱北者のチュ・ソンハ記者によれば、貧しさゆえに売春を行う北朝鮮女性たちの多くが、覚せい剤を常用しているという。

女子中学生も乱用

北朝鮮における覚せい剤の蔓延は、ウォッチャーの間では知られた事実だ。それは貧しい人たちばかりでなく、富裕層も含め、社会全般に及んでいる。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋によれば、「中学生も覚せい剤をやらなければいじめられ、主婦は人民班(町内会)の会議の前にキメてくる。人民保安省(警察)の機動巡察隊員も夜勤の際にやっている。以前は挨拶代わりにタバコを差し出すのが習慣だったが、最近では顔を合わせると覚せい剤をやる」ほどだという。

ほかにも、ショッキングな証言はいくらでもある。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

日本社会にも影響

これには、さすがの金正恩政権も危機感を感じている模様だ。一説には、北朝鮮で最近、公開処刑にされる数が最も多いのは韓流ドラマなどをこっそり視聴したり、ビデオのデータファイルを密売したりした人たちで、その次に多いのが薬物犯罪や中国での脱北者の人身売買に関わった人たちだという。

このうち、「韓流ドラマを見た」というのは、本来なら犯罪でも何でもない。そんなことを理由に拷問したり銃殺したりする国家の方が重大な罪を犯しているといえる。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

また、人身売買については、中国当局が取締りを強化したところ、以前ほど大胆には行われなくなっているとの情報もある。

そうそうると、北朝鮮の社会の歪みが最も大きく表れているのが、他ならぬ薬物蔓延であると見ることもできる。

周知のとおり、北朝鮮はかつて、外貨稼ぎのために国策として覚せい剤を製造・密輸し、日本をはじめ周辺国に多大な害悪をまき散らした。国内での薬物蔓延は、その過程で「製品」や製造技術が流出して起きたもので、外国から見れば「自業自得」と映るだろう。

ただ、そういった国家犯罪とは何のかかわりもないところで、薬物汚染の脅威にさらされている庶民には、やはり被害者の一面がある。

国連などでは年々、北朝鮮国内における人権侵害が注目されてきているが、薬物汚染の脅威から北朝鮮国民を保護すべき問題はいまだ、深刻に取り上げられてはいない。

薬物に汚染された社会が近隣に存在すれば、それはいずれ、様々な形で日本社会にも影響を及ぼすようになる。北朝鮮での覚せい剤蔓延は、日本人にとっても対岸の火事ではないと筆者は考える。

(参考記事:清原和博被告の覚醒剤はどこから来たのか? 対日シャブ密輸ルートの源流をたどる

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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