Yahoo!ニュース

「やっちまうぞ」「かかってこい」米軍とムリして張り合う金正恩氏

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮と米国が、互いに「先制攻撃」を言い合う舌戦を繰り広げている。

北朝鮮外務省の報道官(スポークスマン)は20日、日米韓外相会談(18日)で北朝鮮の核開発の脅威が話し合われたことについて、「白昼強盗さながらの妄言」であると非難した。

舌戦で「戦死」も

報道官はまた、「(米国は)経済的圧迫と軍事的威嚇によってはわれわれを屈服させられないということから『人権問題』まで取り上げてわれわれの『体制転覆』を謀っている」などと反感を露わにし、「米国に無分別な行動を必ず後悔させる」と威嚇している。

この発言は朝鮮中央通信により伝えられたものだが、筆者が繰り返し述べてきたとおり、金正恩党委員長はこうしたメディア戦略を自ら指揮している。そうでなければ、公式メディアが正恩氏のヘンな写真をバンバン公開できるわけがない。

(参考記事:金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか

一方、これと同じ日、北朝鮮外務省の米国専門家も、米国内で高まる対北強硬論をけん制する論評を、朝鮮中央通信などを通じて発表した。

米国では有力シンクタンクの外交評議会(CFR)が16日、「(オバマ政権の)『戦略的忍耐』政策は、北朝鮮による挑発の危険な悪循環を止めることも、北東アジアの安定を確保することもできない」とする報告書を発表。

その中で、「北朝鮮が交渉を拒否し、核能力を増強し続けるならば、北朝鮮の政権の存立と核・ミサイル能力に対する直接的威嚇を含め、一層決定的な軍事的・政治的行動を考慮せざるをえない」などと主張し、先制攻撃も選択肢となりうることを示唆した。

これに対し、北朝鮮外務省の米国研究者であるキム・グァンハク氏は、「共和国は空中と地上、海上と水中をはじめ、任意の空間で米国を相手取る十分な軍事的力を備えている」などと応戦。米軍の脅威に対しては「超強硬対応と無慈悲で即時的な先制打撃で立ち向かうのがわれわれの結論」であると述べている。

まさしく、「やっちまうぞ」「かかってこい」とばかりの舌戦である。しかし、分が悪いのはどう考えても正恩氏だ。北朝鮮からの脅しは、米国全体に向けられたものである。逆に独裁者である正恩氏は、米国からのプレッシャーを独りで受け止めねばならない。

ただでさえ、ストレス過多で健康を害しているとの説もある正恩氏である。

(参考記事:【写真で振り返る】金正恩氏、年々高まる肥満度…髪型にも変化が

本物の戦争が起きる前に、舌戦の中で倒れてしまう可能性は無くもないだろう。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事