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北朝鮮「処刑された軍高官」が再登場した!

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(右)と李永吉氏(左)/2015年10月朝鮮中央通信より

北朝鮮で6日から開かれていた朝鮮労働党第7回大会が閉幕し、大会の最後に各機関の人事が発表された。一部からは、大幅に若返りを図るのではないかという予想もあったが、大きな入れ替えはなかった。

一方、朝鮮中央通信が10日に配信した党政治局委員候補と中央軍事委員会委員の一覧の中に、目を引く名前がある。今年2月初めに公の場から姿を消し、粛正、または処刑されたと見られていた李永吉(リ・ヨンギル)前朝鮮人民軍総参謀長だ。

(参考記事:北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面

日韓メディアが、李永吉氏の粛正・処刑説を報じた直後、総参謀長は李明秀(リ・ミョンス)氏に交代したことから、彼が表舞台から姿を消したことは確実と見られていた。

公開写真が明かす「降格」

リ・ヨンギルという名前は決して珍しくはないが、このクラスに同姓同名の他人が突如として現れることは、ほぼありえない。また、朝鮮労働党機関紙の労働新聞は10日付で、李永吉氏の写真も公開しており、本人と見て間違いない。李永吉氏は復権したようだ。

ただし、粛正・処刑ではなかったものの、一時的に失脚したことをうかがわせる材料もある。李永吉氏の階級だ。下の写真を見てほしい。

(左)2013年10月2日付け労働新聞(右)2016年5月10日付け労働新聞
(左)2013年10月2日付け労働新聞(右)2016年5月10日付け労働新聞

左は2013年10月の写真だが、肩の階級章の星は4つ(大将)だった。しかし、5月10日付けの労働新聞に掲載された右の写真では、星が3つ。すなわち降格されたことになる。

極悪性スキャンダルでも復権

北朝鮮で、一時的な失脚や更迭は珍しくない。その代表例が、今回も政治局常務委員に名前を連ねる崔龍海氏。女癖の悪さで有名な崔氏は、変態性欲スキャンダルで醜聞にまみれた過去を持つほど、何度も女性問題が理由で失脚、復権を繰り返している人物だ。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

北朝鮮の軍幹部の粛清人事としては、まるで見世物のように殺されたとされる玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長の例が記憶に新しい。それに対し、李氏はいかにして死を逃れ、復権できたのか。金正恩氏に対して改めて忠誠を誓ったのは間違いないが、正恩氏はどのような考えから、このような形での復権を許したのか。

筆者の見たところ、今回の党大会には、正恩氏の独裁権力を強めるための様々な仕掛けが隠されているようなのだが、李氏の復権もまた、その一部である可能性がある。その「仕掛け」の全容については、機会を改めて解説しようと思う。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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