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日本人は北朝鮮の「残虐行為」にもっと注意すべきだ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

スイス・ダボスで20日に開幕する世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に、北朝鮮の外相が18年ぶりに出席する見通しだという。核実験に対する非難が集まる中、どんな主張をするのか注目されるが、北朝鮮の問題点は核開発だけではない。

金正恩第1書記は今年の施政方針に当たる「新年の辞」で経済優先を強調。昨年には経済特区・羅先経済貿易地帯の開発計画も公開した。外相の李スヨン氏は故金正日総書記の「金庫番」として長く駐スイス大使を務めた人物だけに、その人脈と経験を生かして投資誘致に乗り出そうというのかもしれない。

しかし、そうは問屋が卸すはずはない。

確かに、北朝鮮の鉱物資源を魅力的と考える投資家がいるかもしれないし、経済の現状がどん底であるだけに、将来の「のびしろ」もたっぷり残っている。それでも、拷問や公開処刑など、深刻な人権侵害が組織的に行われているとの疑いを国際社会から突きつけられた国に、巨額の投資を行える国や投資家は多くはない。

(参考文献:国連報告書「政治犯収容所などでの拷問・強姦・公開処刑」

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

もちろん、「そんなこと関係ない」という商売相手も皆無ではない。世界の紛争当事国や独裁国家は、北朝鮮製の兵器に魅力を感じており、国連制裁も意に介さず取引を続けている。日本のマスコミ報道だけを見ていると、北朝鮮が今にも経済制裁で音を上げるかのように思えるかも知れないが、必ずしもそうではないのだ。

(参考記事:国連制裁も「どこ吹く風」…北朝鮮が加速させる“アフリカ・ビジネス”

とはいえ、人権問題をめぐる北朝鮮包囲網は、これから徐々に効果を表すはずだ。北朝鮮の友好国が多いアフリカにも、国交を断絶したり付き合いを敬遠する国が出てきた。

(参考記事:北朝鮮にアフリカから痛烈な一撃…「国交の価値なし」

翻って、日本はどうか。日本政府は北朝鮮に対し「全面的な輸出入禁止」という最も厳しい制裁を課している。その一方、マスコミには「日本は経済支援をカードに拉致問題で北朝鮮と駆け引きを行っており、いずれは向こうが折れる」という趣旨の記事を書きたがる記者が少なくない。

だが、本当にそんなことが言えるのか? 北朝鮮の体制に支援を行うとなれば、「大勢の人権を犠牲にした『死の取引』である」との国際世論の反発もあり得る(すでにそういった声は出ている)。

北朝鮮当局の残虐行為のせいで日本が批判にさらされるとは、これほど皮肉な状況もない。

果たして、拉致問題の交渉カードとして「経済支援」をちらつかせることに、どの程度の効果があるのか? 今こそ十分な検証が必要だ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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