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北朝鮮、幹部虐殺の裏に「薬物汚染」のウワサ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
玄永哲氏

北朝鮮で、覚せい剤など違法薬物の乱用が広がっている実態については、以前にも指摘した。むかしの日本と同様に、女性たちが「覚せい剤ダイエット」にハマっていると言われるほどの退廃ぶりだ。

そして最近では、高級幹部までもが覚せい剤を常用していると、米政府系のラジオ・フリー・アジアが伝えている。その報道によれば、5月に粛清・処刑された玄永哲元人民武力相も「覚せい剤のやりすぎが原因で処刑された」という噂が、一部で流れているという。

北朝鮮の高級幹部の中には、権力にあかせてやりたい放題の人間もいるが、慢性的な経済難と国際社会からの孤立のせいで、仕事の上では少なからず難題を抱えている。ストレスも非常に強い。

故金正日総書記も、王侯貴族のようなぜい沢三昧の生活をする一方で、かなりのストレスを抱えていたことが伝えられている。

最高権力者ですらそうなのだから、中間管理職はなおのことだろう。粛清あるいは更迭説のある崔龍海(チェ・リョンヘ)党書記のように、あっけらかんと「変態性欲スキャンダル」の主人公になれる人間の方が少数派かもしれない。

また、金正恩時代に入ってからは、父・正日氏の7倍のペースで側近の処刑が行われているとも言われ、幹部らが日々感じている緊張感は、文字通り死と隣合わせなのだ。現実逃避に走るのもうなずける。

しかし、行政を司る幹部がその有様では、薬物の乱用など止めようもないだろう。薬物汚染はすでに、高校生にまで広がっている。北朝鮮当局も取締りに力を入れてはいるが、イタチごっこだ。

仮に近い将来、北朝鮮の体制の自由度が増して改革開放の波が生まれることになっても、現在の薬物汚染が悪い影響を残しはしないか。心配でならない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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