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金正恩氏、軍の最高幹部を粛清か「裁判なしで銃殺」との情報

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏の右側二人目が玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)氏。

韓国の国家情報院が、北朝鮮の朝鮮人民軍総政治局長と玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長が先月、銃殺されたと国会に報告した。韓国主要メディアが13日、一斉に報じた。

人民武力部長は日本の防衛大臣に当たる、軍事行政の最高責任者だ。金正日総書記が「先軍政治」を提唱して以来の北朝鮮においては、文字通りの最高幹部と言える職責である。

それによると、銃殺は裁判なしに、逮捕の3日後に行われたという。

現時点で確認できる玄氏の動静は、4月27日と28日に行われた「朝鮮人民軍第5回訓練指導官大会の参加者のための牡丹峰楽団(モランボン楽団)」を観賞したことが、北朝鮮メディアで好評されたのが最後。

玄氏が観賞した日付は明らかにされていないが、この公演の途中か直後に逮捕された模様だ。

玄氏の容疑は反逆罪、銃殺には大口径の機関銃か機関砲が用いられたとしている。北朝鮮は最近、1発でも当たれば人体がバラバラになるような大口径の火器を用いて銃殺を行っているとされており、その現場が衛星写真で確認された例もある。

銃殺の理由については、行事の途中での居眠りをとがめられ、金正恩氏に口ごたえしたため、との説明がなされているようだ。

なお、金正恩氏はロシアで5月9日に行われた対独戦勝70周年記念式典に、直前になって欠席を決めたが、その理由は「国内事情」と説明されていた。

玄氏の銃殺が事実かどうか、今のところは断定できない。しかし、時の最高幹部の粛清は、北朝鮮では過去にもたびたび行われている。

正恩氏の叔父・張成沢氏が有名だが、日本と縁の深い人物も粛清されている。

韓国の李明博(イ・ミョンバク)前大統領の回顧録。その韓国語版の356ページには次のような一節がある。

「2011年初め、アメリカと中国から驚くべき話を聞かされた。我々と接触した北朝鮮の高官が公開処刑されたというものだった」

この処刑された人物こそ、当時の国家安全保衛部副部長だった柳敬(リュ・ギョン)氏である。最近になって、柳氏本人のみならず一家全員が銃殺されたこともわかった。

かつて、小泉訪朝を巡り日本側と水面下で接触していた柳氏は体制への忠誠心が厚く、金正日総書記から絶大な信頼を得ていたとされる。

今は出世街道に乗っているように見えても、またいかに体制に忠誠を誓っていても、「一寸先は闇」なのが北朝鮮という国なのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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