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北朝鮮はイスラム国と関係がある!? その意外な答えとは・・・

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

筆者が編集長を務めるデイリーNKジャパンは、北朝鮮問題に付随する各国の情報なども発信しているが、最近アクセスする読者に興味深い動向が見られる。

武装勢力「イスラム国」(ISIS)と北朝鮮の関係を知ろうとサイトを訪れる人が、かなりの数に上るのだ。

米国のブッシュ元大統領はかつて、北朝鮮とイラン、イラクの3国を「悪の枢軸」と呼んだ。この中東2カ国の当時の勢いがかすむほど、武装勢力「イスラム国」は、国際社会に強いインパクトを与えている。「ならば、『イスラム国』も北朝鮮と関係があるに違いない」。このように考える人が多いようだ。

それも、あながち不思議なことではない。北朝鮮は中東のイスラム諸国と武器取引を通じて深く結び付いており、米国なども強く警戒してきた。それを知って見れば、紛争の影に北朝鮮の存在があるのではと疑うのは、むしろ当たり前の見方と言えるかもしれない。

実際、「イスラム国」は北朝鮮製の兵器を多数装備していると言われる。代表的なのが、ヨルダン軍機を撃墜した携帯型対空ミサイルである。なかなかの精度を誇るらしく、試射を視察した金正恩氏の動画を見ても、実に満足そうな表情をうかべている。

もっとも、そうした兵器はどうやら、「イスラム国」がシリアから分捕ったものである可能性が高い。シリアと北朝鮮は軍事的にきわめて深い関係にあり、現在もそれは維持されている。一部では、次のような情報も出ているほどだ。

「北朝鮮のパイロットが、シリア軍の攻撃ヘリを操縦して反政府軍を攻撃している」

ロンドンに本社を置くアラビア語紙『アルクドゥス・アルアラビー』がこう報じたのは、2013年10月28日のことだった。シリア・アサド政権の信頼を失った現地パイロットたちの代役を務めているというもので、これと前後してイスラエルの英字紙『エルサレム・ポスト』も、「(アサド政権が雇った)少なくとも15人のパイロットが、反政府軍の要塞に対する任務を遂行中」とのシリアの反政府系NGO代表のコメントを紹介している。

これに対し、北朝鮮外務省は全面否定。第3国の情報の中にも、これが「事実である」と確認したものはない。

それでも、北朝鮮がシリアに大量の兵器を輸出してきたのは事実だ。言うまでもなく、シリアのアサド政権は「イスラム国」と敵対関係にある。また、最近になって「イスラム国」を空爆したエジプトもまた、北朝鮮との軍事的つながりが強い。

それらのことを考え合わせれば、「イスラム国」と親密な関係になれるかは疑わしい。逆に今月14日には、北朝鮮の高麗航空のフェイスブックが、「イスラム国」の関係者を称する何者かにハッキングされる事件もあった。人質2人を殺された日本の衝撃とは比べるべくもない些細な出来事だが、「イスラム国」の敵対陣営の背後にいる北朝鮮が今後、より強烈なけん制を受けても不思議ではないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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