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松山で、伊達&ヨネックスJr2期生の活躍は見られず。だが、2期生の木下晴結が2021年秋に大躍進!

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
ITFジュニア松山大会の表彰式の様子(写真すべて神 仁司)

女子シングルスで辻岡史帆が、男子シングルスで原崎朝陽が初優勝!

「リポビタン国際ジュニア in 愛媛 supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(12月1~5日、愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園)が開催され、ジュニア選手たちが熱戦を繰り広げた。

 新型コロナウィルス感染症のパンデミックは続いており、昨年と同様に海外ジュニア選手のエントリーはできなかったものの、何とか開催にこぎつけ、コロナ感染対策をしながら無事に大会を終えられたことに、ゼネラルプロデューサーを務めた伊達公子さんはホッと胸を撫で下ろした。

「この大会を決める時は、まだ全国に緊急事態宣言が出ていた時ですごく微妙な時期ではあったんですけど、その時に愛媛の方々が積極的に、ジュニアたちの機会を増やしてあげたいということに賛同してくれて、やれることを前提にできるだけ考えてくれた。最終的に開催できましたが、地元の人たちの思いがなければ難しい時期だった。その後、緊急事態宣言は解除されて、非常にいいタイミングで開催できた。昨年もどうなるかって言いながら開催できて、今年もそこをくぐり抜けて連続で開催できたのは、ジュニアたちにとっても本当に良かったかなと思います」

 国際テニス連盟(ITF)公認のジュニア大会(グレード5)である松山大会は、2021年で第2回を迎えたが、各種目のチャンピオンは以下のとおり。

 男子シングルス優勝 原崎朝陽

 女子シングルス優勝 辻岡史帆

 男子ダブルス優勝  原崎朝陽/大岐優斗

 女子ダブルス優勝  金巻知里/北原結乃

 女子シングルスでは、決勝で第1シードの辻岡史帆が、第2シードの松田鈴子を2-6、6-4、6-2の逆転で破り、松山での初優勝を飾った。

「ITFのタイトルが初めてなので、率直にすごく嬉しいです。こういうITFの大会って、グランドスラムジュニアとかにつながっていく大会なので、優勝してポイントを取れましたが、もっと取っていってグランドスラムジュニアに出たいなと思っています。今は、選手としていろんな人を魅了できる選手になりたいです。将来プロになって、グランドスラムのセンターコートに立って勝つのが夢です」(辻岡)

女子シングルス優勝 辻岡史帆
女子シングルス優勝 辻岡史帆

 一方、男子シングルスでは、第2シードの原崎朝陽が、第1シードの松岡隼を3-6、6-4、6-3で破って優勝を果たした。

「優勝しないといけないと思って挑んでいたので、ホッとしました。みんなも強くなっているなと感じたので、僕ももっと練習しないといけないなと思いました。大会中、よく走れていたのが良かったかな。優勝ポイントが30点なんですけど、30点は僕の中では大きい。このチャンスをくださった伊達さんには感謝したいですね。グランドスラムのジュニアに出ることが今後の目標です。プロで生活できるようなプロになりたいですね」(原崎)

男子シングルス優勝 原崎朝陽
男子シングルス優勝 原崎朝陽

 優勝したジュニア選手のプレーを見守った伊達さんは、辻岡と原崎の印象を次のように語る。

「準決勝ぐらいに残って来る子たちは、それなりにレベルも高いですし、決勝は男女共に、第1、第2シードの試合になり妥当な選手たちが勝ち上がった印象でした。それと共に、中身もそれなりのものを持っている」

 また、2021年シーズンに伊達さんとヨネックスは、松山大会だけでなく翌週に「岐阜国際ジュニア supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(グレード5)も設立したが、伊達さんはその狙いを次のように語る。

「ジュニアたちにとって、一つでは結果を出していくのがなかなか難しいと思う。できればやっぱり続けてやっていく中、どこかで結果を出せるようなチャンスをもう少し広げたいという思いがあった」

 引き続き近い将来に日本女子テニス全体の実力が底上げされるためにも、世界への入口となる日本開催の国際ジュニア大会の存在意義は大きい。そして、ジュニア育成は一朝一夕にいかないため、それを見続けられる受け皿のようなITFジュニア松山大会は必要な舞台であり、大会継続にも大きな意味がある。

 まだまだ新型コロナウィルスのパンデミックは予断を許さないが、いずれ終息して、2022年大会こそは、海外ジュニア選手もエントリーして松山に集結し、本来あるべきITFジュニア大会の姿として開催されて、よりレベルの高いプレーの中で、ジュニア選手たちの素晴らしい成長が見られるのを期待したい。

女子ダブルス優勝 金巻知里/北原結乃
女子ダブルス優勝 金巻知里/北原結乃

男子ダブルス優勝 原崎朝陽/大岐優斗
男子ダブルス優勝 原崎朝陽/大岐優斗

松山で、ジュニアプロジェクト2期生の大きな活躍は見られず。だが、木下晴結が秋シーズンに大躍進!

 残念ながら松山で、伊達&ヨネックスジュニアプロジェクト2期生の大きな活躍は見られなかった。だが、松山には出場しなかった2期生の木下晴結が、ひとり気を吐いた。2021年秋シーズンに、15歳の木下は大きな活躍を見せて結果を残し続けたのだ。

 まず、9月に兵庫県三木市で開催されたITFジュニア大会(グレード4)での初優勝を皮切りに、10月には大阪でのワールドスーパージュニア(グレード4)と名古屋でのジャパンオープンジュニア(グレード4)で立て続けに初優勝を果たして、ITFジュニアランキングを200位台後半へ上げた。

 さらに、U15全国選抜ジュニアテニス選手権(中牟田杯)で初優勝。木下にとっては、ジュニア全国レベルでの嬉しい初タイトル獲得となった。また、ダンロップが主催するRoad to the Australia open junior seriesのワイルドカード選手権(日本選手のみ出場)でも優勝してみせた(※オーストラリアンオープン・ジュニアの部への出場ではなく、前哨戦『トララルゴン国際ジュニア2022』(グレード1)での予選のワイルドカードを獲得)。

 伊達さんは、この木下の一連の活躍をどう見ているのだろうか。

「一つの大会に優勝することもすごく大きな意味を持ちますが、連続で勝ち切れる力があるというのは、世界中を見てもなかなかいない。それがこのタイミングで出来始めているというのは、正直驚きです。彼女にとってはすごく自信になるのでは。自信が生まれたと同時に、気持ちもすごく上がっていると思うので、だからこそインドでトライしたいという形になった。上がっていく選手というのは、すごく短い時間の中、どこかでジャンプアップする傾向がある。今の彼女にとって、ジャンプアップする一つ目の時期なのかなということは感じています。久々に、(11月27~28日に松山で開催された)キャンプでプレーを見ましたけど、自信がみなぎっていて、勝つだけのものがプレーの中に表れているのはすごく感じました」

 木下は、12月の第2週に、インドのプネーで開催されたグレードB1のITFジュニア大会に出場してシングルスでベスト4に進出した。準々決勝では、第1シードの選手に4-6、6-4、6-1のフルセットで勝っている。この結果によって、12月13日づけのITFジュニアランキングでは、153位もジャンプアップして、自己最高の147位となった。

ジュニア大会でゼネラルプロデューサーを務めた伊達公子さん。ジュニアプロジェクト2期生の木下の成長に驚きを感じた
ジュニア大会でゼネラルプロデューサーを務めた伊達公子さん。ジュニアプロジェクト2期生の木下の成長に驚きを感じた

 伊達さんは、木下の魅力を語りながら、今後の戦いに必要な課題も挙げる。

「いろんなショットが、他の子より打てますし、ダイナミックでもある。これまで自分のパターンの時はよかったけど、振られた時にも(ショットが)崩れなくなったのは、今夏から大きく変わった。これから海外で戦うことを考えると、下半身の強化、フィジカルの強化が課題ですし、勝負に対するしぶとさも、もっと必要になってくる。あとは、持っているモノはあるので、試合の中で、その時に必要なショットは何なのか、何を選択するべきなのかしっかりと正しくできるといいですね」

 ジュニアキャンプに参加した当初、木下は、伊達さんのことを「正直、最初ちょっと怖いのかな」と思っていたが、キャンプでアドバイスをもらう中、「熱心に教えてくださって、自分もそれに応えて頑張らないといけない」という気持ちへすぐに変わった。また、「伊達さんとラリーできてすごく楽しかった。(ボールが)速かったけど、なんか楽しかった」と頼もしい一面ものぞかせる。

 木下は、現在女子テニスで世界ナンバーワンのアシュレイ・バーティ(オーストラリア)が大好きだ。バーティは、強力なフォアハンドストロークを打つだけでなく、片手バックハンドスライスを操って緩急をつけたり、ネットプレーもうまく交ぜたりして、戦術を巧みに組み立てるオールラウンドプレーヤー。スピードとパワーで一本調子になりがちな女子選手が多い中で一線を画す稀有な存在で、だからこそ身長166cmで世界の女子テニスでは小柄な選手でありながらも世界の頂点に登り詰めることができた。

「バーティって、女子のプレースタイルとちょっと違って、男子に近いようなプレースタイル。自分もバックのスライスとか、回り込みのフォアを使って、女子テニスの世界ではないようなちょっと違うプレーが好きなので、バーティを真似しています」

 こう語る木下の身長は現在167cm(まだ伸びるかも)でバーティより大きくなった。木下は、近い将来プロ選手になることを見据えて、プロとして女子テニスのWTAツアーで活躍できることを願っている。

「WTAのトップ100という壁をよく聞くので、その壁を破って、グランドスラムに出場して上位に進出したいです」

木下が得意だと感じるのはバックハンドだが、将来ツアーで活躍するには、フォアハンドの進化がカギになるのではないか。ラケットヘッドの走りがよいフォアはスケールの大きさを感じる(2021年9月のキャンプ時)
木下が得意だと感じるのはバックハンドだが、将来ツアーで活躍するには、フォアハンドの進化がカギになるのではないか。ラケットヘッドの走りがよいフォアはスケールの大きさを感じる(2021年9月のキャンプ時)

 また、木下の躍進をサポートする奥田裕介コーチの存在も欠かせない。奥田コーチは、自身のLYNXテニスアカデミーでの仕事がある中、ジュニアキャンプ開催の際には京都から1日だけは必ず上京して、伊達さんと直に話しながら木下の課題について取り組んでいる。

 ジュニアキャンプでの伊達さんらの指導と、ジュニア選手それぞれのプライベートコーチとの連携は、非常に重要なのにもかかわらず、これまであまりうまくいっているケースが少なかった。せっかくの貴重なジュニア選手の体験を十分に活かしきれていない部分が少なからずあった。

 熱心な奥田コーチの尽力によるところが大きいが、木下本人と伊達さんサイドそれぞれでうまくコミュニケーションがとれて連携ができているのは、今後も木下の成長へ良い影響を与えるに違いない。

 ランキングを上げた木下は、2022年1月中旬に開催されるオーストラリアンオープン・ジュニアの部の予選に挑戦できる可能性があるポジションとなり、グランドスラム・ジュニアの部の本戦出場も現実味を帯びてきた。伊達&ヨネックスジュニアプロジェクトでの目標達成第1号になるかもしれない木下の今後の成長が非常に楽しみだ。

 そして、木下の活躍に刺激されて、他のジュニア2期生が奮起することも期待したい。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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