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国枝慎吾、東京パラ・車いすテニスの男子シングルスで金メダルを獲得! 生けるレジェンド伝説は終わらない

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
東京パラリンピックで金メダルを獲得して、満面の笑みの国枝慎吾(写真:ロイター/アフロ)

 国枝慎吾は、日本テニスの聖地である有明コロシアムで、金メダル獲得を決めた瞬間、両手で顔をおおい、滂沱の涙を止めることができなかった――。

「本当に信じられないというのが、一番最初の気持ちでした。まだ夢の中にいるような気持ちですけど、本当にこの日のためにすべてを費やしてきたので、それが報われてよかったです」

 東京2020パラリンピックの車いすテニス競技、男子シングルスで、国枝は2大会ぶり3回目の金メダルを獲得した。

金メダルを決めて涙ぐむ国枝。日本国旗を持って、有明コロシアムのコートでビクトリーランをした
金メダルを決めて涙ぐむ国枝。日本国旗を持って、有明コロシアムのコートでビクトリーランをした写真:青木紘二/アフロスポーツ

 第1シードになった国枝(ITF車いすテニス男子ランキング1位、8月30日付け、以下同)は、世界王者らしく大会後半からギアアップしていった。

 準々決勝では、長年の好敵手である第6シードのステファン・ウデ(6位、フランス)と61回目の対戦を迎えた。1時間27分要した第1セットでは、国枝が2-5となる場面があったが、逆転してタイブレークをもぎ取った。国枝は、ミス15本に抑え、45本のウィナーを決めてウデを7-6(7)、6-3で破りベスト4へ駒を進めた。

 それにしてもパラリンピックやグランドスラムで数々の名勝負を繰り広げて来た2人が、有明コロシアムで対峙したのは何とも感慨深いものがあった。

 準決勝では、第5シードのゴードン・リード(5位、イギリス)に対して、勝利への執念を見せる国枝が会心のテニスを披露した。特に、国枝のリターンの出来が秀逸で、ほとんどリターンミスが無く、ベースライン付近から早いタイミングで攻撃的に返球してゲームの主導権を相手に渡さなかった。

 29歳のリードは、リオデジャネイロパラリンピックの金メダリストで、ネットプレーを得意としている強敵だが、国枝は、ファーストサーブの確率が75%、ミスを7本に抑えつつ、20本のウィナーを決め、6-3、6-2で破ってみせた。勝利の瞬間、日本チームのスタッフたちに向かって力強いガッツポーズを作りながら雄叫びを上げた国枝は、「自分自身のマックスが今日出たと思います」と、王者としての自信を改めて深めた。

 パラリンピックで2大会ぶりの決勝進出を決めた国枝は、強い覚悟で次のように語った。

「勝つにしろ負けるにしろ、本当に振りきるだけ。そこ(決勝)に全部自分のすべてを注ぎ込みたいという思いです」

準決勝で勝利した瞬間、日本チームに向かって雄叫び上げた国枝
準決勝で勝利した瞬間、日本チームに向かって雄叫び上げた国枝写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 決勝の対戦相手は第8シードのトム・エフベリンク(8位、オランダ)となり、対戦成績は国枝の9勝0敗だが、国枝に油断や隙は全くなかった。

「ちょっと最初は硬かったですけど」と振り返った国枝は、第1セット第1ゲームで少し硬さが見られ、いきなりサービスブレークを許すものの、果敢なネットプレーを交ぜながら攻撃的なテニスに徹し、第2ゲームから6ゲーム連取でセットを先取した。

 第2セットでも国枝が、第1ゲームと第5ゲームでエフベリンクのサーブをブレークして、試合の主導権を握り続けた。第2セット第8ゲーム、国枝の5回目のマッチポイントで、国枝が放ったクロスへのバックハンドストロークに対して、エフベリンクのフォアハンドストロークがネットして、国枝の2大会ぶり3回目の金メダル獲得が決まった。

 終わってみれば、6-1、6-2、1時間18分の国枝の完勝だった。パワフルなサーブが持ち味のエフベリンクだったが、ダブルフォールトを7回してしまい、20本のウィナーを決めるものの27本のミスを犯した。一方で、「自分自身のやるべきことを僕は知っているし、そのプレーをとにかくこのコートで出すんだと。勝ち負けは考えずに、本当にそこに集中していました」という国枝は、ミスを9本に抑えつつ、18本のウィナーを決め、世界王者たる所以を、改めて有明で示してみせた。

 国枝は、パラリンピックの男子シングルスで3個目の金メダル、さらに男子ダブルスも含めると4個目の金メダル獲得となった。

 また、パラリンピック5大会(2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ、2021年東京2020)でメダルを獲得した初めての選手となった。

「本当にリオの後は、引退も何度も考えましたし、また世界1位に復帰して、こうして東京パラリンピックで金メダルを取れるなんて、というのは信じられないですね。支えてくれた妻、コーチとトレーナー、この舞台に立たせてくれて本当に感謝でいっぱいですね。

 こうしてコーチとトレーナーと共に喜び合えたこと、また、後で妻とも喜び合いますけど、本当にみんなプレッシャーを感じていたと思いますので、その期待に応えられて良かったなと思います」

東京パラリンピックで日本選手団の主将を務めた国枝は、開会式で選手宣誓を行った
東京パラリンピックで日本選手団の主将を務めた国枝は、開会式で選手宣誓を行った写真:長田洋平/アフロスポーツ

 今回の東京パラリンピックでは、日本選手団の主将を務め、これまでと違った責任も負っていた国枝。1セットも落とさずに37歳で再びパラリンピックの頂点に立ち、パラアスリートのロールモデルとなり、東京で集大成となるようなプレーを見せることができた。

 だが、「パラリンピックが終わった後も、皆さんに興味を持ってもらえるようなプレーを今後も続けていきたいです」と力強く語る国枝は歩みを止めない。

 9月第2週には、ニューヨークで開催されるグランドスラムのUSオープンに、ディフェンディングチャンピオンとして臨む予定だ。

 生けるレジェンドである国枝慎吾の伝説はまだまだ終わらない。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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