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プロテニスプレーヤーへ転向、16歳の決意 奥脇莉音  Part2

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
16歳でプロへ転向した奥脇莉音(左)と先輩の尾崎里紗(写真/神 仁司)

 5月1日よりプロテニスプレーヤーになった16歳の奥脇莉音(おくわき りのん)。

「正直、(プロの)自覚という部分ではまだわからないので、実力と共に成長していけたらいいなと思っています」

 テニスの場合は、ゴルフと違ってプロテストが無く、日本テニス協会でプロフェッショナル登録さえされれば、プロテニスプレーヤーになれる。だから、奥脇がプロの実感に欠けるのは無理もない。だが、今後プロとして結果を残していかなければならないのは、テニスもゴルフも同様で、ワールドワイドな舞台で厳しい勝負の世界が待っている。

 もともと奥脇は、父親とキャッチボールをするような野球好きの女の子だった。ある時、両親から違うスポーツもやってみたらと言われて、テニスと出合ったのが5歳の時。試しにやったら、相手よりボールがコートに入るのが楽しく、とにかく打つのが楽しかった。

 たまたま父親の親戚が、「エフ・テニス」(埼玉県上尾市)でテニスコーチをしていた巡り合わせがあり、家から自転車で20分という近さもあって、練習に通うようになった。奥脇の姉がテニスをやっていた影響も大きく、一緒にやりたいという気持ちも強かったという。

 奥脇が小学4年生の時に、姉が、グラスコート佐賀テニスクラブで開催される「夢はウィンブルドンへ! グラスホパージュニアテニス」に参加することになった。奥脇も行きたかったが、参加資格が5年生からのため参加できなかった。

 当時の奥脇は、「最初、ウィンブルドンと4大大会は違うものだと思っていました(笑)」というレベルだったが、この頃からコーチからも頻繁に聞くようになったグランドスラムという単語が、彼女の意識に刷り込まれるように頭に残っていった。

 テニスの4大メジャー大会はグランドスラムと呼ばれ、オーストラリアンオープン、ローランギャロス(全仏)、ウィンブルドン、USオープン、それぞれが100年以上の歴史を誇り、プロテニスプレーヤーなら誰もが目指す最高峰の舞台だ。

 父親は野球、母親がバドミントンとソフトボールをやっていたというスポーツ家族で育った奥脇は、自らを運動神経は良くないと評する一方で、やるからにはとことん突き詰める性分があるようだ。だから、グランドスラムを意識し始めた奥脇がプロを目指したいと考えるのは、奥脇家では自然の流れのようだった。

「もともとプロになることは前提。小学1年生の時の約束で、お父さんと決めていたのは、“やるなら最後までやれ”。一番を目指さないのなら、やるなと言われていた。中途半端にやるなとすごく言われていたので、プロになることは自分の中でずっと持っていたことでした。家族全員で、私はプロになると決まっていたようなもので、だから反対も何もなく、それが当たり前のことでした」

奥脇は、左利きを活かしたフォアハンドストロークを大きな武器にしていきたいところだ
奥脇は、左利きを活かしたフォアハンドストロークを大きな武器にしていきたいところだ

 たまたま父親が、伊達公子&ヨネックスジュニアキャンプの募集要項を見つけてくれた時に、プロになるために役立つと考えた奥脇は「これは応募するしかない」と即決だった。

 また、「エフ・テニス」のコーチが、知り合いの川原努コーチと話をしているのをたまたま聞いて、自分に必要な練習環境やサポートがあるのではと、奥脇は直感し、株式会社グラムスリーにマネジメントをお願いしたいと川原コーチに直談判もした。

「自分もプロになるためには、ここは大事だと思ってお願いしました。貴重なご縁を活かさないといけない。(尾崎)里紗ちゃんは、グランドスラムに出場している選手ですし、一緒に練習できるのはなかなかない。本当にこういう環境でできるのを活かしていきたい」

 27歳の尾崎里紗は、川原コーチとの二人三脚で自己最高WTAランキング70位を記録し、グランドスラム全大会で出場を果たし、2017年USオープンでは2回戦に進出した。

 現在、尾崎との練習を続けている奥脇は、16歳でのプロ転向になったわけだが、テニスでジュニアは18歳までなのでやや早いプロ転向になる。

 この判断は、新型コロナウィルスのパンデミックも影響していて、川原コーチは、奥脇をジュニア大会に出場させ続けるのが得策とは思えず、一般のITF大会に少しでも早く挑戦させて経験を積ませたい狙いがある。そして、19歳ぐらいまでに、グランドスラム予選の出場を目指している。一種の賭けではあるが、決して悪い判断ではない。最初なかなか奥脇は結果が出せないかもしれないし、負けが続くかもしれない。

 コロナ禍で先が見通しにくい時代では、何が正解なのかもわかりづらくなっている。

 とにかくコロナ以前でもコロナ禍でも変わらないのは、少しでも早くITF大会のレベルを卒業して、世界のトップ100に入りWTAのツアーレベルに到達して定着することだ。これは、もちろんグランドスラム本戦出場にもつながる。

 今、奥脇は、フォアハンドストロークにしっかりトップスピンをかけて、ボールを安定させてミスを減らそうとしている。ただ、本来の持ち味でもあるフラットドライブ系で強打するフォアハンドストロークのスピードとコントロールの精度が上がれば、左利きの利点もあるのでツアーレベルで武器になっていくはずだ。

ツアーで活躍した経験のある尾崎と一緒に練習できる恵まれた環境を活かして、奥脇はツアーレベルやグランドスラムでの活躍を目指す
ツアーで活躍した経験のある尾崎と一緒に練習できる恵まれた環境を活かして、奥脇はツアーレベルやグランドスラムでの活躍を目指す

「自分はまだ16歳だけど、ひとりの大人だとちゃんと考えて、しっかりテニスを仕事として、賞金をちゃんと稼がないといけないし、勝っていかないといけない。それでちゃんと食べていけるように。それが大事かなと思っています」

 奥脇のプロテニスプレーヤーとしての覚悟は固まっている。そして、川原コーチが語るようにサポート側の覚悟もやはり非常に重要になってくる。

 奥脇に、一番出場してみたいグランドスラムは何かと聞くと、めちゃくちゃ悩んだ末、「やっぱり全米かな。全部出たいですけど、今は、一番ハードコートでテニスをしやすい」と答えた。プロとしてグランドスラムを目指す奥脇の挑戦は、今始まったばかりだ。険しい道のりになるかもしれないが、16歳で下した決断と覚悟が、厳しい勝負の世界を生き抜いていくためのプロテニスプレーヤー・奥脇の核になっていくはずだ。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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