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伊達公子さんプロデュース 国際テニス連盟公認ジュニア松山大会の誕生に込められたメッセージ ~後編~

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
新設Jr.大会を無事に終えた伊達公子ゼネラルプロデューサー(写真すべて神 仁司)

「リポビタン国際ジュニア supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(12月2~6日、予選:11月30日~12月1日、愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園)では、伊達公子さんのジュニアプロジェクトで指導を受けて来たジュニア選手4名も参戦した。奥脇莉音(15歳)と永澤亜桜香(14歳)は、自力で本戦ストレートイン。一方、成田百那(14歳)と山上夏季(13歳)には、伊達さんらがジュニアキャンプでの練習姿勢や練習マッチでのプレーを考慮して本戦ワイルドカード(大会推薦枠)が与えられた。

 このジュニアキャンプは、伊達さんが、ヨネックス株式会社と手を組んでスタートさせた15歳以下の日本女子ジュニアを対象としたプロジェクト。若手を含めたその他の日本女子テニス選手が、世界のトップ10レベルで活躍できそうな気配がなかなか感じられないため、厳しい現状と日本女子テニスの将来を危惧した伊達さんが始動させた。2019年6月から2021年2月までの約2年間で、2日間のジュニアキャンプが8回組まれている。

 ITFジュニア松山大会では、永澤、成田、山上は、シングルス1回戦敗退。ただ、成田はダブルスでベスト4に進出した。そして、左利きの奥脇は、シングルスで準優勝という結果を残し、ジュニアプロジェクトの選手の中で、一番の好成績を残して意地を見せた。

「決勝まで来られたのは良かったですけど、(決勝の)前半は緊張してしまって、自分のプレーがなかなかできなくて負けたのは、すごく悔しい。この負けを次に活かせるように頑張っていきたい。最後まで勝ち切れない部分があったので、もうちょっとメンタルをしっかり強くしていかないと、と思った」(奥脇)

女子シングルス準優勝の奥脇。もともとバックハンドストロークを得意としているが、最近ではフォアハンドストロークを改良中
女子シングルス準優勝の奥脇。もともとバックハンドストロークを得意としているが、最近ではフォアハンドストロークを改良中

 松山でゼネラルプロデューサーとして、約1週間ジュニアたちのプレーを見守った伊達さんは、もちろん女子シングルス決勝の戦いもコートサイドで見つめた。初優勝した石井(ITFジュニアランキング323位、大会時、以下同)と準優勝した奥脇(1096位)へ伊達さんは次のような評価を示した。

「(女子シングルス)決勝まで来て、ここ(松山大会だけ)の中で勝つことではないテニスをしたうえなら、負けた分は、いずれどこかで穴埋めをできる時が来るとは思います。ただ、今日(女子シングルス決勝)みたいな試合の中で、守りだけで、相手のミスに助けられてポイントを取るゲームをやっているようでは、やっぱり世界に行った時にはかなり難しい。そういう意味では、決勝を戦った2人(石井と奥脇)は、十分ポテンシャルがあった。まだ当然荒削りだし、修正しなくちゃいけないことは山積みですけど、見る人が見れば、可能性を感じられるテニスはしているのではないでしょうか」

 奥脇は、2020年夏頃から株式会社グラムスリーとマネジメント契約を交わし、グラムスリー所属の川原努コーチが、松山大会期間中、奥脇の練習に付き添った。

「(奥脇は)すごいショットもあるけど、それを帳消しにするぐらいの簡単なエラーをする。ボールまでの歩数が足らない、簡単に言ってしまえばテニスが丁寧じゃないことが多い。そんな彼女は普段からきっちりやっていくことが課題です。(決勝では)日本女子の左利きではなかなかいないような展開ができている時もあったので、そこをこれからどう活かせるかですね。この大会に関しては、決勝に来ましたけど、(近い将来プロになって)グランドスラムや世界のトップ100を目指すことへの1球に対する重みがない。われわれは、あくまでもグランドスラムです。ただ、個人的には、(奥脇が)思っていたよりもできると感じたし、彼女の可能性も見えました」

 こう評価した川原コーチは、今後奥脇には、ジュニア大会ではなく、一般のITF大会に挑戦させたいと考えており、19歳ぐらいまでには、最低でも一般のグランドスラム予選に挑戦できるようにさせたいと目論んでいる。

 伊達さんとヨネックスのジュニアプロジェクト第1期生である奥脇は、2021年2月27~28日に開催予定の第8回目キャンプで卒業となる。

 奥脇は左利きだが、テニスでは左利き選手が少ないためこれだけでもアドバンテージになる。例えば、左利きのフォアクロスは、右利きのバッククロスとの打ち合いになり、アドバンテージサイド(コートの左側)のラリーを支配しやすいメリットがあるため、左利き特有のフォアハンドストロークをもっと磨けばだいぶ違ってくるだろう。サーブは回転をかけ過ぎて失速気味になっているので、まだまだ改良の余地ありだ。いずれにせよ、今後どのような成長を奥脇が遂げていくのか見守っていきたい。

表彰式での奥脇と伊達ゼネラルプロデューサー。ジュニアプロジェクトの一環として、奥脇が結果を残したことは、伊達さんにとっても収穫だっただろう
表彰式での奥脇と伊達ゼネラルプロデューサー。ジュニアプロジェクトの一環として、奥脇が結果を残したことは、伊達さんにとっても収穫だっただろう

 ゼネラルプロデューサーとしての伊達さんは、ジュニアプロジェクトでタッグを組み、大会を共催してくれたヨネックスをはじめ、後援してくれた愛媛県や松山市、そして、特別協賛してくれた大正製薬株式会社に、第1回大会の成果を示すことができたと言っていいのではないだろうか。

「スタートをきれたことは良かったことです。けれど、これを続けていかなければ、なかなか結果というのは見えるものではないので。継続していくことも大事だということも、スタートをきれたと同時に感じました」

 こう語る伊達さんが、いくら大会の存続を願っても、協賛企業などの理解が得られなければ、大会運営の資金に行き詰ってしまうだろう。その意味で、伊達さんのジュニアプロジェクトの選手である奥脇が結果を残して、大会意義も含めて協力者たちにアピールできたのは、今後の大会継続に向けて明るい材料になったし、伊達さんからすれば大きな収穫だった。

 もちろんジュニア選手たちへの注文も伊達さんは忘れない。

「ジュニアたちへの意識づけとしては、毎年ここに帰って来てもらっては困る。ここをベースに巣立って、1回目を出場した選手が、近い将来グランドスラムに勝っていくということを目的として作った大会なので。その夢をしっかりと受け止めて、帰って来ないということでスタートしてもらえれば。それが選手たちに望むこと。ただ試合をやるのではなく、しっかりと明確な目標と、そのために必要なことを感じながら育ってくれればいいかなと思います。同じ選手は、3回目以上取るの(出場させるの)はやめようかな(笑)。特別ルールで(笑)。それぐらいの思いで作っているので、そういうことを(ジュニア選手に)しっかり受け止めてほしいです」

 あくまでグレード5のジュニア大会は、プロへの第一歩となるものであり、勝利しながらどんどんステップアップしてもらって、松山大会は早々に卒業ですと言えるぐらいの成長を、伊達さんはジュニア選手たちに期待している。

 ただ、ジュニアレベルを卒業して一般のプロレベルでもすぐに勝ち進める、飛び級ができるようなジュニア選手はほんのひと握りだけであり、選手の才能ばかりに依存するだけでは選手育成はままならない。

 本来、選手の育成は、飛び抜けた才能のあるジュニアだけを強化するだけではなく、できるだけ多くのジュニア選手を世界へ送り出し、プロで成功できる選手の最大公約数的な人数を増やすことだ。そこに選手育成の最大の意味がある。

 現在の日本女子テニスでは、テニス4大メジャーであるグランドスラムで3回優勝した大坂なおみ(WTAランキング3位)が実力的に突出しているものの、決して日本の選手層がWTAツアーのトップレベルで厚いとは言えない。

 だからこそ、近い将来日本女子テニスの実力が底上げされるためにも、その間口となる日本開催のジュニア大会が新設されたことの意義は大きい。そして、ジュニアの成長は時間を要するため、それを見届ける受け皿のようなITFジュニア松山大会は必要な舞台であり、大会継続にも大きな意味がある。

 まだまだ新型コロナウィルスのパンデミックは予断を許さないが、いずれ終息して、2021年大会こそは、海外ジュニア選手もエントリーして松山に集結し、本来あるべきITFジュニア大会の姿として開催される中で、よりレベルの高いプレーや、ジュニア選手たちの素晴らしい成長が見られることを望みたい。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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