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錦織圭、全仏テニスの準々決勝でナダルに完敗! パリでの戦いから得られた収穫と改善すべき課題とは!?

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
ローランギャロス準々決勝で、ナダルに完敗した錦織圭(写真/神 仁司)
ローランギャロス準々決勝で、ナダルに完敗した錦織圭(写真/神 仁司)

「出し切ったは、出し切った。まぁ、満足は無いですけど、これが今週の、今日の限界だったので。そんなに悔いはないですけど、やっぱり(ベスト)8以上は行きたかったです。つらい中でも、もうちょっといい試合はしたかったなと今は思っています」

 疲弊した錦織圭の硬い表情からは決してベスト8に納得しているわけではないことがうかがえた。

 ローランギャロス(全仏テニス)準々決勝で、第7シードの錦織(ATPランキング7位、5月20日付)は、第2シードのラファエル・ナダル(2位、スペイン)に1-6、1-6、3-6で完敗し、パリで初のベスト4進出はならなかった。

 もし錦織が、第1セットで善戦してナダルに食い下がっていければ、もしかしたら勝機を見出せるかもしれないと思われたが、第1セット第2ゲームで錦織が早々にサービスブレークをされて、それは希望的観測に過ぎないことを思い知らされた。

「ラファは、自分の思うようなプレーをさせてくれなかった。とりわけ自分がフレッシュな状態でなければ、彼と対峙するのは容易なことではありません。重いボールを打ってきたし、サーブも良かった」(錦織)

 3回戦と4回戦で3日連続の試合になってしまった錦織に対して、ナダルはフィジカル面でアドバンテージがあったことは率直に認めた。

「たぶんそうだね。たしかに(準々決勝の)2日前に、僕はストレートセットで試合(4回戦)に勝ったからね。それに圭は、この大会期間中に僕より長い時間テニスをしていたから。それは確かなことだね」

 第2セット第2ゲームで、錦織が唯一のサービスブレークをしたものの、試合は終始ナダルが支配した。ナダルの強力なトップスピンのかかったフォアハンドストロークは、錦織のラケットをはじき、ナダルのフラットドライブのバックハンドストロークはスピードがあり、満身創痍の錦織には追いつけないことが多かった。

「最初の2セットは、ぶっちゃけコート上にいるのがつらかったというか、ちょっと思うようにプレーができなかった。プラス体が動かないので、やっぱりフラストレーションはすごく溜まっていた」(錦織)

 第3セット第6ゲームの後には、夕立のため約1時間の試合中断があり、その時に錦織は、コーチたちと戦術を再確認してコートに戻った。

「やることが明確になって、ちょっと光が見え始めてからは逆に最後の方はもうちょっとやりたかったなというのがあった」

 こう振り返った錦織だったが、時すでに遅しで、ナダルは錦織の反撃を許さなかった。

 また、準々決勝で錦織は、右上腕部にテーピングをしてのプレーだった。第3セット第3ゲームと第5ゲームの後には、トレーナーを呼んでマッサージを受ける場面も見られ、もはや錦織にほとんど余力は残されていなかった。

 錦織は、フォアのウィナー10本とバックのウィナー4本を含む合計17本のウィナーを決めたものの、フォア19本、バック10本を含む合計30本のミスを強いられて、活路を見出すことはできなかった。

 ナダルは、フォアのミス14本を含む22本のミスをしたが、フォアのウィナー17本を含む29本のウィナーを決めて錦織を圧倒した。

 大会を振り返って、“たられば”にはなるが、3回戦で第2セットを錦織が取っていればストレートで勝てていたかもしれない。4回戦も錦織が第2セットを取っていればストレートで勝てていたかもしれない。5セットを2回連続で戦わずにすんだのなら、準々決勝でナダルのような強敵と戦う前に、錦織はもっとエネルギーを温存できたかもしれない。

 今後のグランドスラムの戦いで、錦織が大会第1週でできるだけエネルギーを温存できるかが引き続き課題にはなる。ベテランも若手もレベルが高くなっている中、今の錦織にとって課題の克服は決して簡単なことではないだろう。そこをどう戦い抜くのか、マイケル・チャンコーチとダンテ・ボッティーニコーチとしっかり話し合って対策を立てていくべきだ。

 ナダルは、ローランギャロスで11回の優勝を誇るが、33歳になった今も全く闘志は衰えず、勝利への執念は修羅のごとくすさまじい。今季の春頃には右ひざの心配があったが、ローランギャロスではフィジカル面も充実させている。

 2013年ローランギャロス4回戦で、錦織がナダルにストレートで敗れた時は、当時23歳の錦織がこれからナダルとの差をきっと縮めていくにちがいないという希望を抱いたものだったが、あれから6年が経過した今回の準々決勝では、29歳の錦織が、33歳のナダルにより大きな差をつけられて敗退するという厳しい現実を突きつけられた。

 ただ、錦織は、今春にテニスの調子を落とし、4月からのクレーシーズンのスタートも決して良くはなかったことを踏まえれば、ローランギャロスベスト8は、決して悪い成績ではない。

「テニス的には100%納得はできなかったですけど、フォアもよくなっていましたし、クレーでのプレーの感触は確実に、この2週間(ローランギャロス)は良かった」

 錦織にとってローランギャロスで収穫だったのは、一番の武器であるフォアハンドストロークの威力が戻って来たことではないだろうか。リターンでもラリーでも、ボールが弾んでから伸びる深いフォアが、何度も錦織の攻撃の基点になった。

 一方で、試合の勝敗やセットの取得に直結するサービスゲームでは、錦織のサーブはまだまだ安定性がなかった。ファーストサーブの確率が落ちたり、ダブルフォールトをしたりして相手につけ入る隙を与えてしまっていたため改善が必要だ。

 来週から始まり7月上旬のウィンブルドンまで続くグラス(天然芝)シーズンでは、さらにサーブの重要性が高まるので、錦織はサーブを是が非でも改善していきたい。

「調子が上がっていたのは、何よりも救いというか、次に向かってポジティブにいられる要素ではある」

 錦織にとって、課題も残ったが、収穫もあった2019年のローランギャロスが、V字回復の始まりであったと今後の戦いで言いきれるような活躍を期待したい。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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