金正恩政権クーデターの主導権を握るのは中国か、アメリカか?~朝鮮半島をめぐる覇権争いが始まった

北朝鮮、5回目の核実験 ソウルで反北朝鮮デモ(写真:ロイター/アフロ)

朝鮮半島が揺れている。韓国と北朝鮮はいずれも歴史の岐路に立たされていると言って過言ではない。極めて不安定で、リスクの高い状態となっている。

韓国は目覚しい経済発展を遂げ、世界でも有数の経済大国の一つとなった。しかし、現在、深刻な内憂外患に悩まされている。破竹の勢いであった経済成長も陰りをみせ、長期停滞の様相をみせている。2016年10月には、朴槿恵大統領の親友である民間人の崔順実が国政に関与していた、いわゆる崔順実ゲート事件が発覚してからは、政治・経済・社会が混乱状態に陥った。朴大統領の弾劾を求めた大規模なデモや集会が起き、実際に12月には12月9日、国会で弾劾訴追案は議員定数300人のうち299人が参加し、賛成234人、反対56人、棄権2人、無効7人で賛成が可決に必要な3分の2を超え、弾劾訴追案は可決され、朴大統領の大統領権限は停止されている。さらに、崔順実ゲート事件では、韓国サムスン電子の現トップ、李在鎔副会長が賄賂などの容疑で逮捕された。経済にも大きな打撃になる状態だ。外交でも厳しい展開になっている。日本との関係は冷え切ったまま、というよりさらに悪化している。2015年末の安倍首相と朴大統領による「歴史的」とさえいわれた慰安婦問題に関する「合意」で期待は高まったが、結局、その「合意」さえ宙に浮いてしまった。慰安婦像をめぐって、駐韓日本大使は「一時帰国」に入ったままだ。蜜月と言われた中韓関係も、THAAD配備をめぐって、今では日韓関係以上に悪化していると言われる。すでに韓国文化・製品の輸入制限が始まっている。THAAD配備に土地の提供を行ったロッテには露骨な嫌がらせが行われている。このままTHAAD配備になれば、ロッテだけでなく、サムスンやヒュンダイの製品のボイコットなどにも広がる可能性がある。中国への輸出に依存している韓国経済は致命的打撃を受けるかも知れない。アメリカとの関係も微妙な状況だ。トランプ大統領の就任によって、韓国との貿易にはさらに厳しい条件がつけられそうだ。韓国はアメリカと中国の板挟みになり、司令塔欠如のままに立ち往生している。

北朝鮮は、金正恩最高指導者のもとで、挑発的な政策をとってきた。度重なる核実験やミサイル発射は、韓国、日本、アメリカだけでなく、中国との関係も悪化させた。確かに経済制裁にも打たれ強い体質はあるだろうが、中国や韓国の本格的な経済制裁は打撃を与えそうだ。中国は真剣な「警告」として北朝鮮からの石炭の輸入をストップするという制裁を履行した。これによって北朝鮮は金正恩政権の主要な外貨獲得源を失うことになった。少なくとも表ビジネスでの外貨稼ぎは急減するはずだ。この状態にプラスして、金正男氏暗殺事件が起き、ならず者国家・北朝鮮のイメージがさらに強まった。関係の良かったマレーシアも北朝鮮との関係を見直す方向だ。北朝鮮の独裁による洗脳は、どのような状況でも「安定した秩序」を形成してきて、クーデターは起こらないといわれてきたが、さすがに状況は流動的となっている。

このかつてない朝鮮半島の混乱状況に、アメリカと中国の覇権争いが勃発している。これまでにも北朝鮮の指導者への暗殺計画は報道されてきた。金正恩氏の暗殺計画も話題にはなっても真偽はよくわからない。中国主導かアメリカ主導か、ということだが、基本的にはどちらの国にとっても北朝鮮の混乱は望ましいものではないので、本気で実行されることはなかったということだろう。

しかし、北朝鮮の度重なる挑発などで、状況は緊張を高めつつある。韓国が司令塔を欠き、アメリカと中国との狭間で方向を定めることができず、ふらふら揺れ動いていることも大きい。THAAD配備ではアメリカ寄りのスタンスを見せながらも、反朴運動が高まる中で、ポスト朴政権は北・中国よりの政策を取るのではないかとみられている。北朝鮮による核兵器の脅威に対応するため、The Wall Street Journal(2017年3月2日付電子版)で、CAROL E. LEE 氏とALASTAIR GALE氏は、「トランプ米政権が武力行使や政権転覆などの選択肢を検討していること」を報じている。CIAによる金正恩暗殺、そしてクーデターによるアメリカ傀儡政権の樹立は想定可能なシナリオだ。そうなれば、朝鮮半島はアメリカの強い影響下に置かれることになる。同様に中国主導によるクーデター、そして中国傀儡政権の樹立のシナリオもあり得る。韓国は中国からの今以上の圧力がかかる可能性が高い。ポスト朴大統領の政権下では、中国が韓国も含めた朝鮮半島に強い影響力を持つ可能性もある。

こうした事態においては、韓国・北朝鮮は思いがけない「統一」もあるかもしれない。しかし、それは思い描いていた自立の統一朝鮮ではなく、アメリカ支配下の統一朝鮮か中国支配下の統一朝鮮のいずれかになる。そもそも、いずれのプロセスも、平和裏に行われるとは限らない。アメリカと中国という二つの経済・軍事大国が覇権を争うわけで、予想不能な混乱状況が起きる可能性の方が高い。それにプーチン・ロシアも絡んでくるのは当然だ。何が起こるかシュミレーションも困難だ。

韓国、北朝鮮の幾つかの個別の不安定要素が、爆発的な混乱の引き金になるリスクがある。トランプのアメリカ、習近平の中国、プーチンのロシア、金正恩の北朝鮮、無指導者状態の韓国の構図は、極めて不確実な北東アジアを作っている。妥協を嫌う戦う役者が勢ぞろいだ。たさらに言えば、安倍晋三の日本、蔡英文の台湾もこの状況をさらに不安定化させる可能性が高い。

関わるアメリカ、中国、韓国、北朝鮮、日本、ロシア、台湾は、世界の経済力、軍事力で重要な地位を得ている。GDPの世界ランキングでは、アメリカが1位、中国が2位、日本が3位だ。核兵器保有国が、アメリカ、中国、北朝鮮、ロシアと4カ国もある。軍事費ランキング(2015年)では1位がアメリカ、2位が中国、5位がロシア、8位が日本、9位が韓国となっている。この地域の暴発は確実に世界を大混乱に陥れる。いかに冷静に安定した北東アジアを作っていくことができるか。大きな試練である。大局的な視点から、この地域の信頼醸成を築いていくことが重要だ。今は相当に危ない状態だ。