中国の環境規制厳格化に揺れる日系企業~新たな事態に苦悩する日系企業に求められる処方箋

(写真:ロイター/アフロ)

中国の環境問題は深刻だ。PM2.5などによる大気汚染は深刻化し、土壌にも様々な化学物質が混ざり、川の水も地下水も汚れている。この状況を改善しようと今、中国では「グリーン革命」が進行している。「環境後進国の中国に何ができる?」と侮ってはならない。凄まじいスピードで環境基準の見直し、厳格な適用、処罰化が進んでいる。状況のあまりの急変に日系企業も当惑し、大きな不安を抱えるようになった。

人間も気候が変われば体調を崩す。急激な生活環境の変化は病気を誘発する。同様なことは企業にも言える。社会環境・経営環境の急激な変化は、対応を間違えれば企業の弱体化を招き、ひいては経営不振・破綻に陥ることもありえる。そうならないためには、的確な現状把握と問題への適切な処方箋が必要だ。

名医はしっかりした検査、的確な診断、適切な処方箋を行う。名医は有名な病院の肩書き持つ医者のことだろうか。患者の希望通りに点滴をして、注射をして、効きそうな薬をたくさん出してくれる医者のことなのだろうか。

人間は兎角「看板」を信じやすく、大きく有名な病院のドクターに間違いはないと信じやすい。多くの薬を出してくれ、一時的な症状の改善をもたらす医者は人気があるといわれる。

しかし、本当の「名医」とは、患者の立ち居振る舞い、状態を通して病気の原因を突き止め、最も効果的な治療法と処方箋をかける人ではないだろうか。決して、沢山の無駄な薬を出してくれ安心だけくれる人ではないはずだ。一時的な症状の改善よりも、原因を解明し、長期的な視野にもたって治療をする人が名医のはずだ。

今、中国に進出している日本企業に必要なのは上記の様な「名医」ではないだろうかと思う。目先の利益だけをみて、大きなリスクを負わせたり、古い情報で現状に合わない対策を教えるコンサルなどが多いのが残念だ。

先週、東証一部上場企業のA社の役員の方と話す機会を持った。私は昨年度より何度も提言している「日系企業の中国での環境違反事例」について持論を紹介した。このままでは日系企業の多くが中国の変化について行くことができず、事業の失敗ばかりか企業としてのコンプライアンスに大きな問題を抱えてしまうことになってしまうのではと言う危惧からである。

この役員の方はご自身も中国赴任の経験があり、昨今の中国の環境対策の急変にも精通されていた為か私の意見に多く共感していただく事ができた。この企業は、中国に10社以上の関連企業を持ち、中国での事業が売り上げの大きな柱となっている。コンプライアンスの面からも今まさに大きな決断を迫られている企業とみて良いだろう。

そして昨日、その役員の方からお電話を頂き、役員会にて以下の様な決定が下されたことを教えて頂いた。

「弊社は、2017年度に於いて中国の環境法規対策には予算の有無にかかわらず、関連会社全てが積極的に進めていくことになりました。やはり、この中国における環境汚染対策は避けて通ることができないばかりか、逆に積極対応することで中国政府へ良い印象を残すべきとの判断から役員会一致の決断となりました。」とのことであった。大変素晴らしい対応だと思う。

以前より私は、「今こそ日系企業がそのアドバンテージとして積極的にアピールすべきことは、環境汚染に対する取り組みだ」と主張してきた。私も先ずは一安心と胸をなで下ろした気分だ。

しかし、ここからが大事なところなのだ。

現在、日系企業が中国で環境対策違反を起こしてしまっている主原因が何かを明確にしない限りは、どんな妙薬もどんな手術も全く意味が無いことになりかねないからだ。これまで私が現地からの生の声を聞きおよび、そして実際に何人かの専門家と意見交換をして推測するところ原因と考えられることは以下の点に集約される。

1. 本社からは環境対策を迫られているが、現場の責任者には何らの有効な手段や方法が与えられず、ただ何とかしろとの一方的な要求になってしまっている。

2. 現地では、頼るべき現地スタッフに十分な見識や経験が無い場合が多い。そして、最悪の場合は、そのスタッフが商業賄賂に絡んでおり正しい判断ができない状況にある。

以上のような原因により、現地工場や事業所では的確に状況を把握し、問題に対しての適切な処方箋を書ける人材が不足している現実がある。

病気の原因を的確に見抜き、それに合った処方箋を出せる医者がいなければ、病気を治すことはなかなかできない。間違った処方箋だと病状がさらに重くなることさえある。企業の場合も同様に、専門性を持ち、しっかりとした情報収集、分析、そして対策を打ち出せる人がいなければ、企業・工場が持つ課題の解決はほぼ無理だということだ。つまり、中国での現在の日系企業の大部分は、どのような社会環境の変化が起きていて、自分がどんな状態にあるかを分からないまま、何とかしろと言われ続けているという状況なのだ。この状態が続けば、やがて「病状」は重くなり、治すことができないレベルにまで悪化する可能性がある。

だから本社が本気で現地企業に環境対策を取らせたいのであれば、その道具となる手法や人材を提供すべきである。多くの場合、現地スタッフでは無理で、むしろ状況を悪化させることに繋がる。優秀な外部の専門家に任せてしまうのが正しいやり方だろう。名医とヤブ医者を見分けることは重要だ。大企業も含めて、自己流の分析と処方箋で、相変わらず「弊社ちゃんとやっています」と言いながら、片方では環境違反で罰金を科せられるという矛盾した状況が起きている。決して、総経理(現地企業の責任者)は嘘を言っているわけではない。ちゃんと部下(現地スタッフ)に指示を出し、適切に処理するようにしているのは事実だからだ。しかし、文化の違い、習慣の違い、言葉の違い、そして規制法規の大きな変化の中で指示を受けた部下達も何をどうすればいいのか、分からない。五里霧中状態に追いやられ、素人なりに精一杯努力をするのが限界だ。結果は自ずと知れている。本社から定期的に環境改善の専門家が派遣され改善を行っている大手企業はある。しかし本社から派遣されてくる担当者は中国現地法令を熟知しておらず日本流のやり方を通そうとしてしまい、中国法規とは乖離した改善を指示しているケースが多くあるようだ。その結果、さらに状況が悪化するという環境対策悪循環状態が引き起こされている。現状は悲惨だ。

こんな時、「名医」がいてくれて、正しく診断し必要且つ十分な処方箋を書いてくれたらどれほど良いだろうか。そんな風に思っている責任者は多いことだろう。今まさしく中国現地にて求められているのは、環境対策の「名医」なのである。

中国の現地事情に精通し、昨今の規制法規の動きをタイムリーに掴み、それぞれの企業の現状を正しく把握して、かつ設備や施設機器にも熟練しているという条件を兼ね備えたエキスパートがいないことには、問題解決は夢のまた夢だ。

おそらく、今中国政府が推進している環境保護産業の柱になるのであろう「第三方環境治理企業」が、その役目を担うのであろう。日系企業への対応という視点では、私は、日系企業と中国の大学などが取り組んでいる産学官連携のプラットフォームなどに期待をしている。頼ることができる「名医」の育成はこれからの大きな課題だ。

環境産業を成長させ、世界の環境問題にも手を伸ばそうという中国の大きな将来へ向けたビジョンを日本企業は知っておく必要がある。対策で出遅れるばかりではなく、ビジネスの種をも失ってしまいかねない。

リスク対策(環境汚染防止)とチャンス(環境ビジネス実績作り)が交差する年がまさしく今年2017年である。中国も春節が明け、これからが2017年の本番が始まる。今年こそが環境ビジネスの種まきの年となる。適期に土地を耕し、種を植えておかなければ、花を咲かせることはできない。日本政府、そして日本企業は、世界が大きく激変するこのときにこそ、しっかりと日本の将来を見据えた取り組みを行って欲しい。