グローバリズムと保護主義の狭間で揺れる中国~中国の内憂外患に日本のチャンス

2017年ダボス会議 習国家主席が初参加(写真:ロイター/アフロ)

 2017年も既に1ヶ月が過ぎようとしている。この1ヶ月の間に今後の世界を左右する出来事が多く起きた。歴史的転換点にふさわしい1ヶ月といえた。

 激動の時代の中で先進国の国々が注視せざるを得なかった出来事が2つある。1つはアメリカのトランプ大統領就任で、そしてもう1つがダボス会議であった。

 トランプ大統領は就任するやいなや、アメリカ第一主義を明確に打ち出し、難民・移民を受け入れない方向と保護主義の政策を展開している。

 メキシコとの国境に壁を作ることも真剣に考えている。アメリカとメキシコの国境は長く3000キロを超える。年間100万人が不法的移動をしている。世界で最も不法的移動が行われる国境であり、アメリカはこれまでにも問題視し対策をしてきた。これまでにも既に壁は作られており両国の国境の3分の1ほどに金属製の柵や壁がある。砂漠地帯にはまだ壁や柵はなく現在も命をかけた越境が行なわれている。トランプ構想はさらに頑強な壁を国境全てにつくるというものだ。イスラム圏からの移民や難民に対しても厳しい政策をとろうとしている。トランプ大統領はシリア難民等の受け入れ停止やイスラム教徒の多い国への入国ビザの発給停止等を盛り込んだ大統領令に署名した。まさにアメリカに巨大な壁をつくりつつある。

 また貿易に関しても完全に保護貿易の方向だ。日本にとっても大きな懸案であったTPPに対して、トランプ大統領は離脱を正式に発表した。メキシコとの貿易に対しても厳しい態度を示している。メキシコの貿易額は年間で計5000億ドルにも達しておりお互いに重要なパートナーのはずだ。しかしトランプ氏はNAFTA批判を続けており脱退も示唆している。中国、日本、韓国などとの貿易についても、アメリカが有利になるように主張している。自由貿易のリーダーとしての誇りを捨て去るような方向を打ち出している。世界経済の大きな懸案になっている。

 1月17日~20日に開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、初参加の習近平中国国家主席が行った演説には多くのメディアが注目し、様々にその意味するところを評論している。中国の苦悩と戦略が垣間見える。

 内憂外患の中にある中国という国家の主席として、習近平氏が言及しておきたかったことは何か?それは、1つは「保護主義の牽制」であり、もう1つは「パリ協定の堅守」だ。かつての中国からは考えられないような展開だ。

 習近平氏は、保護主義に関して以下の様に発言した。

 「世界を取り巻く多くの問題は、決して経済のグローバル化がもたらしたものではない」と断じ、「(世界の)異なる人たちがグローバル化の利点を分け合えるようにすることが、我々世界のリーダーがこの時代に果たすべき責任だ」とリーダー達の保護主義傾倒を牽制した。トランプ新大統領の保護貿易主義を念頭に置いた発言だ。今後の世界に於いて中国が自由貿易のリーダーシップを果たすと言わんばかりだ。ただその中国も実情は複雑で、自由貿易へのアクセルと中国から外貨が流出しないように「保護」する自由貿易へのブレーキとを同時に踏んでいる状態だ。とはいえ、中国はかつて2010年に世界貿易機関(WTO)加盟に至るまでは、経済のグローバル化に対して疑いを持ち、中国の経済発展に大きなマイナスの影響を与えるのではないかと自ら保護主義にこだわってきた。こんなにも世界情勢が変化したのかと隔世の感がある。

 パリ協定に関しては、「パリ協定は世界の発展の方向と一致しており、共に堅守すべきで放棄してはいけない。これは我々が負わなければならない次の世代に対する責任だ」と支持を表明した。中国はまぎれもなく環境後進国であった。中国のいいかげんな環境対策は、スモッグで覆われた空、様々な色に濁り、汚染された川、化学物質にまみれた土壌を作ってきた。その中国が環境対策で、前向きに取り組むことを宣言しているのだ。これも驚きの変化といえる。

 ダボス会議での習近平氏の演説の背景にある意図は、果たして何であったのであろうか。中国が国家として抱える「内憂外患」が何かを考えてみることで自ずと見えてくる。

 内憂とは、まさしく経済発展の副作用である環境破壊、環境汚染の深刻さであり、急激な経済の衰退である。1月13日に、中国税関当局は2016年の貿易統計を発表している。それによると輸出額は前年比7.7%減、輸入額は同5.5%減という衝撃的な数字であった。世界中の誰もが知ることとなった大気、水、土壌の悲惨な環境汚染があり、真剣に取り組まなければならない崖っぷちの状態となった。そして、急激な経済の衰退が同時に起こり、将来への不安がある。これが内憂としての頭痛である。

 では外患とは何か?習近平氏が中国ドリームとして進める「一帯一路」政策への世界的な向かい風と米国を中心とする保護主義、自国優先主義による「貿易戦争」による経済の影響である。中国は安価な巨大な労働力と拡大し続けた巨大な市場をバックに、中国第一主義を貫きながら世界第2位の経済大国にのし上がった。しかしこのパターンでは限界に達したのだ。

 中国は今、国家発展を見据えた大きな政策変更を余儀なくされている。市場経済を取り入れる事で経済的な発展をもたらした「既存の経済システム」を今一度見直し、中国発の新しい産業創成(イノベーション)を全面に立てて、新たな中国主導の世界経済を組み立てる野望を持つ。そして、その大きな主軸が環境技術と素材技術であり、13億の人口という莫大な情報「ビッグデータ」を活用した新しい技術であることは明らかである。特に環境技術においては積極的に外国の優れた技術を取り入れ、中国企業との連携、合併、協同研究などを進めて中国に於いて実を結ばせ、それを今度は世界に輸出するという将来像を描いている。

 新しい技術で中国国内の環境問題を解決すると同時に、そこで実施された経験を持って中国国内の企業を成長させる。そして彼ら主導の新しいイノベーション技術としてビジネス化し、世界進出の新たな筋道を作るというのが中国政府の戦略だ。

 だから、習近平政権にとって上記の環境問題「パリ協定の堅守」とグローバリズム「保護主義の牽制」は絶対に避けて通れないのだ。環境問題の解決と経済の活性化の両方を実現していこうというのだ。「パリ協定の堅守」と「保護主義の牽制」に彼らの新たな理想が伺える。

 このような世界的な情勢下、日本企業のビジネス戦略はどう進めていくべきだろうか。西欧世界の自国優先主義の趨勢は日本一国が止めることのできる時流ではない。しかし、世界で起きている環境問題とエネルギー問題、そして両方の解決に繋がる新素材の開発などにおいて、日本が持つアドバンテージは大きい。解決のキーとなる技術が、日本にごまんと埋もれており、それらの技術を掘り出すことで如何様にも日本主導のイノベーションを起こしていくことができる。環境、エネルギー、システム化における先端技術で優位に立つ日本にとって、時代は大きなチャンスを与えてくれている。

 しかし現在、日本は企業の肥大化による悪弊にとりつかれ、共産主義国家以上に共産主義的と言われるほど、身動きがとれなくなっている。まさしく閉塞感で一杯だ。昨今の大企業と呼ばれた企業群の体たらくと身売り、そして中々そこから抜け出せないのが現日本の自家撞着状態だ。この状況を打破するためにも、今ひとたび中小企業の素晴らしい技術に焦点を当て、それらを政府主導の世界ビジネス化することが求められている。これまでの大企業主導ではなく、今ひとたびイノベーションの塊である中小企業によるビジネス環境再編成こそ、経済の発展と人材雇用の解決策だと思う。

 内憂外患の中で蠢く隣国中国は喉から手が出るほどこれらの技術を待ち望んでいる。中国だけでない。アメリカもヨーロッパも苦悩の時代に入りつつある。この中で日本が輝きを取り戻すチャンスが訪れている。日本企業の新たな挑戦精神こそが日本の未来を明るくするはずだ。