北方領土返還への危険な賭け~領土返還の約束なき経済投資

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 プーチン大統領の日本訪問は、北方領土問題でのなんらかの進展があるものという期待があった。プーチン大統領は国民からの支持も高く、良い意味でも悪い意味でも「強い」大統領だ。安倍首相も今もかなり高い支持率を誇り、強い首相といえる。北方領土問題の解決にはお互いに妥協が必要で、強いリーダーシップがないと実現ができない。この機を逃すとずっと北方領土の返還はないのではないか、と思えるくらいだ。2014年まで原油価格の高騰で好景気を続けたロシアであるが、2015年からは原油や天然ガス価格の落ち込みとウクライナ情勢をめぐる米国や欧州連合(EU)による経済制裁によって、ロシアは厳しい状況に置かれた。日本の経済投資を求めるロシアと北方領土返還を求める日本との思惑が一致するのではないかと期待されたのだ。しかし、原油価格がやや上がる傾向にあるのと、アメリカでトランプ大統領が誕生することなどから、日本との交渉に北方領土返還の飴を出すまでもない、という判断であろう。

 安倍首相とプーチン大統領との首脳会談は友好ムードの下で行われたとのことだが、北方領土返還に関してはほとんど進展はなかった。北方領土問題の解決を含む平和条約の締結については「まだ多くの課題が残っており、信頼の醸成が欠かせない」ということだ。平和条約の締結においても、ロシアの側に北方領土返還が入っている認識であるかどうかも怪しい。

 経済協力プランに関しては、民間を含め、日本側が総額で3000億円規模となる経済協力を進めることで合意した。企業間では東シベリアにおける共同炭鉱開発や、北極圏のLNG=液化天然ガス開発への融資など、60件余りの合意文書が取り交わされた。これは日本経済にとっても基本的にはプラスである。シベリアの資源は日本にとっても魅力である。経済活動は双方的に利益をもたらすもので、一方的に日本が負担するという見方は間違いである。経済協力、経済活動のもとに、お互いが信頼醸成を行うことは友好関係構築の基本中の基本だ。それはそれで王道の発想だ。

 だが、日露関係においてはやはり躊躇がある。日本とロシアの関係はアメリカとの関係もあり、時にギクシャクする。実際に現在も、アメリカ大統領選でドナルド・トランプ氏勝利を有利にするためロシアがサイバー攻撃を仕掛けたということで、オバマ大統領はロシアに報復措置を加えるという。またEUは首脳会議を開き、ウクライナ情勢を受けて続けてきたロシアへの経済制裁を、来年7月末まで延長することで一致したという。日本が経済協力を進めようとする流れとはかなり異なる姿勢だ。まだまだ、何が起こるかわからない。確かにプーチン大統領とトランプ氏は協力的な関係のようにはみえるが、何かを契機として一気に対立するというシナリオも考えておかなければならない。

 つまり、日本は大きな投資をしても、その投資が実を結ばない状況が考えられるのだ。北方領土も返還されたわけではない。つまり外交関係が冷えるなら、なんの成果もないままに投資しただけが損となるリスクがある。日本としては約束なき危険な賭けに乗らされたという感じだ。プーチン大統領の駆け引きのうまさが際立つ。

 ただ、今の状況であれば、こうしたリスクを冒さなければ、北方領土の進展の緒さえ見いだせないということは確かだ。安倍首相もこのリスクはわかった上での判断だろう。経済協力の合意で、北方領土問題が解消したというようなメッセージとロシアがとらないように、厳しく要請し続けることが必要だ。北方領土に限るなら、私は部分的でも国後島の返還が決定的に重要だと考えている。日本が本気で投資するならやはり国後島は欠かせない。漁業、観光などにおいて重要だ。私の提案は2島半(歯舞群島、色丹島、国後島の西半分)の返還だ。これによって本格的な経済投資が可能になり、ロシアにとってもプラスになる。

 いずれにしても、これからは根気と迫力の勝負になりそうだ。強権プーチン大統領を攻め落とすことができるかどうか。今回の合意は、日本にとっては危険な賭けだ。この賭けに勝つことができるかどうか。結果が分かるには、少なくともまだ数年はかかりそうだ。