悪夢のシナリオ、トランプ大統領誕生の可能性は~核兵器使用も辞さない強硬姿勢は有事には追い風になる

(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選で実業家のドナルド・トランプ氏が共和党の候補者に正式指名されてから1カ月が経った。ほとんどの政治学者・評論家が予想しなかった展開だ。私も何度か、アメリカ大統領選の共和党候補者の予想について書いたが、最後にはトランプ氏は失速するとしていた。完全に読み違えた。1年前からトランプ氏の「ブーム」は報じられたが、こうしたことはアメリカ大統領選挙ではありうること。実際に予備選が始まれば、一気に泡沫候補になるだろうというのがおおよその予想であった。それくらいトランプ氏の発言には違和感があったし、共和党の主流の方向とも合致するとは思えなかった。

しかし、トランプ氏は正式指名までたどり着けた。後は本選が残るだけである。民主党のヒラリー・クリントン氏も人気がない。「ヒラリーで地獄、トランプでも地獄」といわれるかつてない状況に陥っている。トランプ氏の核兵器使用発言で、「ヒラリーで地獄、トランプでは地獄もなくなる」とさえ揶揄される状況だ。

特筆すべき展開は、共和党の主要議員や元高官らがトランプ氏に反旗を翻しているのだ。ヒラリーがいいわけではないが、トランプは絶対だめだ、というのである。予備選挙の間は不協和音がでても、いったん候補者が決まれば、基本的にノーサイドとなり、自党の候補者を応援するのが普通だ。それでも嫌な場合には一切選挙には関わらないのがアメリカ政治に関わるトップ政治家の礼儀であった。今回は、声高らかにトランプ批判をするのだから尋常ではない。

ニューヨーク・タイムズなどによれば、ブッシュ前政権などで外交・安全保障政策を担った共和党の元高官ら50人が、大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ氏を批判し、同氏への投票を拒否する書簡に署名した。書簡は、トランプ氏が当選すれば「アメリカ史上で最も無謀な大統領になることは間違いない」と警告している。考えられない展開だ。自分が属する政党の候補者をここまで批判するとなると二大政党制のアメリカの政治構造の根本を否定するようなものだ。

共和党議員も次々とトランプ批判を展開している。マケイン上院議員は「トランプ氏の発言は共和党の価値観を表すものではない」と強い口調で批判している。リチャード・ハンナ下院議員は初めてクリントン氏支持を明確にした。ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領とジョージ・W・ブッシュ元大統領は親子でトランプ氏への批判を展開している。共和党若手の最大の実力者となるポール・ライアン下院議長も反対の意見を表明している。まさに共和党の中核議員が反対だという異常事態だ。

アメリカの世論調査は今のところ、決定的なものではない。クリントン氏が差を広げているとしているものもあれば、トランプ氏がクリントン氏をリードしているとしているものもある。今の段階で支持率をみてもあまり有効ではない。支持率は一気に変わるのだ。特にトランプ旋風ではこれまでの常識的な判断をしてはならない。7月26日に公表したロイター/イプソスの世論調査によると、共和党候補ドナルド・トランプ氏の支持率は39%となり、民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官の37%を2%ポイント上回ったと報告されている。今のところどっちに転ぶかわからない、というところだろう。

時事通信(8月14日デジタル)はワシントン時事の報道として、共和党候補ドナルド・トランプ氏が、大統領に就任すれば核兵器の使用も排除しない考えを繰り返し示し、識者の間で核攻撃の敷居を下げかねないという懸念が強まっていることを伝えている。「トランプ氏の支持率が急落し、党有力者の離反が相次ぐ一因にもなっているようだ」というのだ。

しかしこれは同時にどちらにアメリカ世論が向くかも知れないリスクを示している。トランプ氏の核兵器使用も辞さないという強硬な姿勢は、アメリカ国内でテロ事件などが起きた時に猛烈な追い風に変わる可能性がある。2001年9月11日にアメリカ合衆国内で起きた同時多発テロから15年が経とうとしている。9月ー10月にテロ事件が起きたら、状況は一気に変わりうる。その時トランプ大統領の誕生は可能性から現実となる。オリンピックが終わり、ひと段落した9-10月に何か起きたら。。。トランプ氏はISを徹底的に批判している。それが刺激となってテロが起き、結果としてトランプ大統領の誕生という皮肉な事態もありうる。アメリカでなくてもヨーロッパ等で世界的なニュースになる事件であればトランプ氏には追い風となるだろう。「強硬」姿勢が支持率を下げるという分析は平時においてもこと。有時では一気に支持率を上げることもありうるのだ。